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6.佑

パソコンから視線を外し時計を見る。 10時20分....そろそろ東矢が帰ってくる時間だ。 レポートも随分進んだし今日はもう終わるか。 大きく伸びをしてゴロンと横になる。 千夏を駅まで送り、帰ってから今までずっと同じ姿勢で座っていたから尻が痛い。 駅での去り際に見せた千夏の表情が思い浮かぶ。 寂しそうな、儚げな笑顔。 『送ってくれてありがとう。...また明日ね。』 そう言って構内に入っていった千夏に手を上げて応えた。 .....潮時なんだろうな。 可愛いとか、会えて嬉しいとか、一緒に居たいとか...そんな感情が無いのに、このままだらだらと付き合っていくのは多分間違っている。 何度体を繋げても、そこに生まれているのは愛情なんかじゃなくて。 ただの欲の発散に利用しているだけで、千夏が望む想いを与えてやることはできそうにない。 『今すぐ好きにならなくても良いの。ゆっくり私を知ってほしい。』 告白してきた時に言った千夏の言葉。 彼女で何人目だろうか...こうして付き合っては別れるのは。 中学生の時からを思いだし指折り数え思わず苦笑した。 彼女達全てが同じ終わりかたを迎えていることに、自分でも呆れてしまう。 束縛、依存、馴れ馴れしさ.... 言葉にすれば悪く聞こえるが、好意を寄せている相手からならば喜ばしく感じるであろうそれら。 普通なら嬉しいはずなんだ。 だけど、それが自分に対して向けられたとき...俺が感じるのは不快感だった。 昔からそうだ。 ガキの頃から、ダチだろうが可愛い女の子だろうが、一定以上の距離を越え干渉されるのが嫌だった。 理由なんか分からない。 ただ、驚くほどのスピードで気持ちが冷めていく。 可愛く感じていたものは鬱陶しくなり、許せていた行為が面倒くさくなる。 そんなんだから、告白されて付き合ってみても長続きなんかするわけがなくて。 自分の都合で相手を傷付けていることに、申し訳ないやら情けないやら、なんとも微妙な気分になってしまう。 『佑はさ、不思議と依存体質の女の子が寄ってくるよな。依存ホイホイ。』 東矢が笑いながら言ったことがある。 それを聞いて妙に納得してしまった。 あー...煩わしい。 考えるのも面倒になってきた。 先行きの見えない自分の性質に、脳が考えることを放棄する。 「.....クッソ腹へった...早く帰りやがれ、バカヤロー...」 勝手に食べなかったくせに、空腹の腹立たしさを東矢に向ける。 きっと腹が満たされれば、今のこの惨めな気分も紛れるに違いない。 時計の針が大きく聞こえる。 窓からは遠くで走るパトカーのサイレン音。 その二つの音に耳を澄ませていれば、ボロいあの階段を登ってくる足音が僅かに聞こえてきた。 部屋の前で止まった足音と鍵が差し込まれる音。 扉を開いて姿を現した男に顔だけ向けてボンヤリと見つめる。 ...こいつだけだ。 俺の境界線をあっさりと越えてしまうヤツは。 「.....おせぇ....死ぬぞ。」 恨みがましく呟く俺に「だから食ってろって言ったじゃんか。」と東矢は笑ったー。

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