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7.【合コン】東矢
「なーなー新藤、七尾。頼むよ。お前らいると女の子の集まり良いんだって。」
「やだ。面倒くさい。」
「たりー。」
「そんなこと言わずにさ!頼むよ!」
大学近くのファミレスで清水が頭を下げてくる。
わざわざ俺の前にはロールケーキ、佑の前にはブラックコーヒーが置かれている。
高校からの友人である清水に頼みごとがあるからと呼ばれ来てみれば、案の定合コンのお誘いで。
その為にこうしてご機嫌取りをしてくるあたり姑息だ。
それでも好きなものを目の前に置かれれば、ついつい手が伸びてしまう。
チラッと横を見れば佑もコーヒーに口を付けているところだった。
「な?ちょっと顔出してくれれば良いから!頼むよ二人とも。」
「うま~。」
「んな甘いもん、よく食うな。」
「うまいよ?佑こそ、そんな苦いだけの飲みもんよく砂糖なしで飲むよな。」
「ガキか、お前。」
「ちょ、お前ら聞いてる!?」
「あ...!」
両手を合わせる清水の向かい側で佑と話していれば、無視すんなとロールケーキの皿を取り上げられてしまった。
「聞いてるよ。だから嫌だって断ってるでしょ。だいたい、俺はこの間彼女と別れたばっか。ケーキ返して。」
「別れたんなら気兼ねなく行けるだろ。新しい出会いも大切だって!だから行こうぜ。ほんと、お前ら来てくれないと困るんだって。新藤も、頼むよ。」
机にぶつかる勢いで頭を下げてくる清水に苦笑してしまう。
隣からはあからさまなタメ息が聞こえてくるところをみると、佑も同じように感じているのだろう。
こんなに必死に頼むようなことでも無いと思うんだけどな。
それでも、友人にここまで頭を下げられてしまうと無下にもできない。
だけど...
『新しい出会い』、、その言葉が引っ掛かってつい佑の様子を伺ってしまう。
先日、佑も彼女と別れたと聞いた。
彼女と上手くいかなかった理由は今回も同じなのだと思う。
結局タイプは違えど、『他人を受け入れられない』という点においては俺と佑はよく似ている。
萌絵と別れたばかりということを別にしても、俺は今彼女を作る気にはなれない。
でも佑はどうなんだろう。
フワフワとした可愛らしい彼女と別れて、本当は新しい彼女がほしいのだろうか。
....何考えてるんだろ、俺。
佑がどうしたいのかなんてこと、何でこんなに気にしているんだろう。
「な!この通り!」
清水の声にハッとする。
少し思考の沼に嵌まっていたところを引き戻される。
頭を下げているその姿に小さくタメ息を落とし「どうする?」と隣に視線を向ければ、同じように此方に視線を向けてきた佑と目が合った。
「...仕方ねぇだろ。今回だけな。」
小さく呟くと佑は残りのコーヒーを飲み干した。
その表情が心底面倒くさそうで...何故か少しだけホッとしてしまった自分に呆れてしまう。
そうして、そんな自分の心を隠すように俺は口を開いた。
「...ったく。なら最初だけ。料理食べたら俺らは帰るからな。」
「よっしゃ、助かる!おお、それで良いから頼むよ。」
「サンキューな」と言いながらロールケーキの皿を差し出してくるのを受け取る。
「やっとゆっくり食える。」
まだ少ししか食べていなかったロールケーキを口に運ぶ。
うん、やっぱりうまい。
自分の訳の分からない思考を追い出すようにケーキを堪能する。
柔らかな食感と口の中に広がる甘さに思わずニヤけていると、横から視線を感じた。
「...一口で食わねぇから清水に奪われんだよ。トロいやつ。」
「ロールケーキを一口って無茶言わないで。」
頬杖ついてそんなことを言われ笑ってしまう。
甘いものは一切食べない佑にはこの美味しさは分からないだろう。
「そんな旨いもんとは思えねぇけどな。見てるだけで胸焼けするわ。」
「一口食ってみる?」
「いらねー。」
カシャッ...
「「あ?」」
スプーンに乗せたロールケーキを佑に差し出していると、カメラのシャッター音が聞こえてくる。
見ればスマホを構えた清水が「よしよし。」と呟いていて。
「清水...何やってんの。」
スプーンを片手にそう問えば、清水はニヤッと笑った。
「え?お前らの写真撮ってんの。女の子集めるのに使うから。」
「.....今のを?」
「そう、今の。七尾が『あーん』してるやつ。女の子な、こういうの喜ぶからさー。」
「こういうの?」
言っている意味がよく分からなくて首を傾げれば、スマホを操作しながら清水が言葉を続けた。
「お前らみたいなヤツが、やけに距離詰めてたり?親しげにしてたり?世の中そういうのが好きな女の子が多いんだよ。」
「へぇ...よく分からない趣味だ。」
「...下らねぇ。」
肩を竦める俺たちに「まぁ知らないほうがお前らは良いんじゃね?」と清水は笑って見せる。
「よし、じゃあ俺帰るな。段取り決まったらまた連絡すっから。あ、今のLINEで七尾にも送っといたからな。」
スマホをポケットにしまいながら清水が立ち上がった。
伝票をヒラヒラと振りながら歩いていくその姿はどこかウキウキしているようにも見える。
「あいつ、アホだな。」
「だね。」
笑いを含んだ佑の声につられ、俺も笑いながら清水を見送ったー。
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