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8.東矢

清水から『七尾にも送っといたから』と言われアパートに帰ってからLINEを開いた。 「うわ...」 見た途端に溢れたのは苦笑い。 ❮お前らできてんの?ww❯ メッセージと共に送られていた画像は自分が思い描いていた以上に恥ずかしい写真だった。 頬杖をついている佑と、その口許にスプーンを差し出す俺。 それだけなら予想通りだったのに、これは... あの時『いらねー』と呆れたような態度をとりながらも小さく笑った佑。 それが他人からはこんな風に見えるのか。 これ、佑には見せられない...よな。 俺にいつも見せるあの表情が、第三者の目線になるとこうも違うのか。 優しい、穏やかな顔。 まるで恋人を見るかのような... こんな写真、佑が見たら『消せ』って一言だ。 ❮バカ言うなら行かないからな。❯ 清水にメッセージを送り、スマホをベッドに放る。 そのままゴロンと寝転がり天井を見上げた。 壁一枚向こうでは、佑も同じように転んでいるのだろうか。それともタバコを吸いながらテレビでも見ているのか... さっきまで一緒にいたのにまた部屋に遊びに行こうかと考えてしまい、そんな自分に突っ込みを入れる。 アホらしい...シャワーでも浴びよ。 勢いよく体を起こす。 同時に放ったスマホがメッセージ受信を知らせるのに、きっと清水からだろうと無視を決め込み俺は浴室に向かったー。 そうして清水から連絡がきてから一週間。 気乗りしないまま佑の部屋の扉を開ける。 「佑、行ける?」 中に入りながら声を掛ければ、佑はちょうどポケットに財布を突っ込んで出ようとしているところだった。 「ん、行ける。」 俺を押し退けるようにして玄関にしゃがみこみ、ブーツの紐を結ぶその姿をぼんやりと見つめた。 グレーのVネックニットに黒のジーンズ。 ブランドものでもなければ、ネックレスや指輪なんて飾りもない服装。 どちらかというと地味な格好なのに、スタイルがものを言うのか何となくオシャレに見えるから不思議だ。 地毛が少し明るく、染めていると勘違いされやすい硬めの髪。 ショートのその髪型が、佑の男らしさを引き出していてとてもよく似合う。 そして、唯一着けているシンプルなシルバーのピアス... 「....どした?」 「あ...いや、何でもない。」 「そうか?変な顔してんぞ。」 立ち上がった佑に胸をトンッと拳で叩かれ慌てて答えれば、そう言ってフッと笑われた。 「...佑のさ、そのピアス。」 「あ?ピアス?」 先に出た佑が俺を振り返る。 「そ、ピアス。やけに色っぽいよなって。」 「はぁ?色っぽいか?」 「うん。目を引く。」 後ろ手に扉を閉めながら答えれば、ニッと笑った佑と目が合った。 「...空けてやろーか?ここんとこに。」 長い指が俺の耳殻を引っ張る。 そこは佑が空けているのと同じ場所で、咄嗟に身を引いてしまった。 「ごめんなさい。無理です。バカなこと言いました。」 佑が安ピンを使って自分で穴を空けていたのを思いだし思わず謝れば、ケラケラと笑う声が安いアパートの通路に響いた。 軟骨に針通すなんて、とてもじゃないが俺には無理だ。 俺からしてみれば正気の沙汰じゃない。 佑は平気な顔して空けていたが、隣で見ていた俺のほうが痛かった。 絶対に俺が空けないと分かっていてそう言ってくる佑を少し恨めしく思ってしまうのは仕方ないと思う。 「色っぽいとかアホなこと言うからだろ。おら、行くぞ。」 一頻り笑ったあと俺を見るその顔は楽しそうで、だけどどこか優しいその表情に一瞬視線を奪われる。 ...なに佑相手に見惚れてんだか。 あの写真を見てから気づけば佑を目で追っていることが増えた...ような気がする。 グシャッと頭を掻き思考を追い払う。 見れば佑は先に歩きだし、階段を下りようとしていて。 「...迎えに来たのに置いていくし。」 鍵すら自分で閉めずに先を行く幼馴染みに呆れつつ、ポケットから鍵を取り出す。 貰ったスペアキーは自分の部屋の鍵と同じくらい手に馴染んでいたー。

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