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11. 東矢(・過去 閲覧注意)
『ねえ、いい?いい?』
譫言のように繰り返す声。
重い体。
生温い体温。
体を這う丸い指先。
耳にかかる吐き出された息。
やめろ...気持ち悪い、
俺に触るな......!!!
「.....ぅああっ!!」
自分の叫び声で目が覚める。
暗闇の中、一瞬ここが何処なのか分からない。
ハァ、ハァ、と荒い息と煩い心臓の音。
汗ばんだ体が気持ち悪い。
夢...大丈夫、夢だ。
自分に言い聞かせる。
あれはもう終わったこと。
そしてここは安全な自分の部屋だー。
吐きそうな気分で体を起こしベッド脇に置いてあったライトに手を伸ばす。
「...大丈夫か?」
足元から聞こえてきた小さな声に体がビクッと震えた。
「っ、ごめん、起こした?」
「んー、平気。それより...夢に見たのか。」
気遣うような声。
俺が唯一打ち明けた相手。
パチッと点けた小さな光に少しだけ眉根を寄せながら、佑が身を起こした。
「情けないよね、たいした事じゃないのに...」
苦笑とともに呟けば「んなことねーよ。」と返ってきた。
「...汗すげぇな。水汲んできてやっから、ちょっと待ってろ。」
「あ...、ありがとう。」
立ち上がりそう言うと佑は部屋を出ていってしまった。
その後ろ姿を見送り、ベッドにゴロンと転がる。
「くっそ、、、早く忘れろよ、俺」
嫌でも思い出してしまう。
あの気持ち悪さ、不快感...そして恐怖を。
週末、部活が終わり自転車を飛ばす。
小学生の頃は佑と一緒にサッカーをしていたが中学ではそれぞれ違う部活に入り、俺はバスケ、佑は空手部に入っていた。
同じタイミングで終われば一緒に帰るが、そうでなければ別々。
『待っててくれても良いのに。』と文句を言うと『腹減ってんのに待てるか、バーカ。』と一蹴された。
今日も先に帰ってるしなぁ。
隣に駐車していた佑の自転車はすでに無かった。
今ごろおばさんの作った晩御飯を食べているのかもしれない、そう思うと無性にお腹が空いてくる。
夏休み前の生温い風を浴びながら自転車を走らせる。
途中、薄暗い堤防で一台の自転車とすれ違った。
キキーッと鳴るブレーキ音。
その数秒後に背後から肩を掴まれた。
「っと、わっ!」
驚き、自転車を止め振り返れば...そこにはありきたりな学生服を着た男が自転車に跨がったまま俺の肩を掴んでいて。
「あの、何で...んっ!」
何か用事でも有るのかと自転車から降りると、急に引っ張られ大きな手で口を塞がれた。
そのまま引き摺るように道の脇に連れていかれる。
何が起きたのか分からない。
あまりにも突然のことで体が強張ったまま動かなかった。
「....ちょっとだけだから」
顔を近づけ囁く言葉の意味が理解できないまま、恐怖心だけがわき上がる。
何がちょっとだけなのか、こいつは誰なのか、俺をどうする気なのか...
「離せ...っつ!!」
口を押さていた手が離れたと同時に暴れ叫んだ。
ガッ!!
頬に走った痛み。
殴られたのだと理解した時には大きな体にのし掛かられていた。
「...ハァ...ハァ...」
強く殴られ揺らぐ視界に、男の紅潮した顔が映る。
カチャカチャとベルトを外す音、次いで左手に握らされたそれ。
「力込めたらダメだよ?...そう、そのまま」
「.....っ、や、...!!!」
俺の手が離れないように手首を握る力が強くなる。
カクカクと俺の上で腰を揺らめかす大きな体。
「かわいい...」と囁く上擦った声。
手の中でヌルつく男のモノ。
太い指が体をなぞり顔を撫で、口の中に入れられる。
「ヒッ...!」
舌に触れる苦いその指を咄嗟に噛んだ。
「ったいな!!」
指が引き抜かれ、また頬に走る痛み。
怒りに顔を赤く染めた男が睨み付けてくる。
気持ち悪くて仕方ないのに恐怖に支配された体は叫ぶことができない。
震える左手に力を込めることすらできない。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ......!!
「ねえ、いい?いい?」
ハァハァと熱の籠った吐息とともに紡がれたセリフに吐き気を催す。
やがて激しさを増した男の動きが、俺の手と腰に強く押し付けられ止まった。
「あ、あ~...!.」
「......ッ、ガハッ...!!ぅ、、」
手のひらに感じる熱い濡れた感触。
ビクビクと震える男のモノ。
耳元に掛けられた男の喘ぎと吐息。
気持ち悪くて、気持ち悪くて...込み上げる嘔吐感に従った。
吐き出した胃液が男の放った精液の臭いと混じり異臭を放つ。
逃げないと...!!
口に広がる胃液の苦さと鼻に抜ける痛みが、俺に抵抗する力を取り戻させた。
そこからはどうやって逃げ出したのかよく覚えていない。
がむしゃらに暴れた。
掴んだカバンで男を殴ったような気もする。
乗っていた自転車は捨て、頭が真っ白になるほど走った。
そうしてなんとかたどり着いた自宅。
でも玄関を開けることができなかった。
家に入るのが怖い。
俺のこの姿を見たら、何があったのか追求される。
母さんは泣くかもしれない。
それは嫌だ。
知られたくない、泣いてほしくない。
助けて、佑...
頭に浮かんだのはいつも側にいる幼馴染みで。
震える手で携帯を取りだし、佑の番号を押したー。
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