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12.佑(・)

ボロボロになっていた東矢を風呂に押し込んだ。 脱いだ制服を手に取り、そこに付いた濡れた残骸に嫌悪感と怒りが混ざったどす黒い感情が沸き上がる。 「う、グッ…!」 シャワーの音に混ざって嘔吐く声が聞こえてくる。 一瞬声を掛けようかと考えてから、思い止まった。 そうして何も気づかないフリをして汚れた制服を洗濯機に突っ込み、スタートボタンを押した。 下着と服をタオルと一緒に置くと、先に自分の部屋へと戻る。 「くっそ...!!!」 ダンッ!!! 沸き上がる感情を階段の壁へとぶつけた。 こんな殺意めいた黒い怒りを感じたのは初めてだったー。 晩飯を食い、部屋で寛いでいたら机の上で震える携帯。 表示された名前を確認し、すぐに通話ボタンを押した。 『...佑、....っ、』 「...どした?....おい、東矢?」 名前を呼びそのまま声を抑えてしまった様子に、異様な雰囲気を感じた。 そうして覗いた窓の下には、ポストの前で蹲った東矢の姿。 「待ってろ、すぐ降りっから!」 嫌な予感がした。 急いで開けた玄関の向こう、そこには見たことがないほど身体を小さくしボロボロになった幼馴染み。 乱れ、汚れた制服 殴られ腫れた顔 ガタガタと震える身体 当たらなくても良い嫌な予感は当たり、何があったのかなんて聞かなくても想像できた。 「佑...お願いだから、誰にも言わないでー」 部屋に入りポツポツと話した東矢は、そう言って悲痛な...それでいて懇願するような顔を見せた。 「っ、お前...」 その震える身体をギュッと抱き締めた。 俺と同じくらいの体格。 けして華奢とは言えない体なのに、今は頼りなくて。 真夏のくそ暑い気温の中、触れた東矢の手は血の気が引いていて...冷たいその指先にコイツが感じた恐怖が窺い知れた。 安心させるように背中を撫でてやれば、過呼吸のように繰り返されていた息が少しずつ落ち着いていく。 「...誰にも言わない。大丈夫、もう大丈夫だ。」 それだけしか言えなかった。 自宅に帰ることもできなかったコイツが、どうすれば安心できるのか。 頭で考えたって分からなくて。 「...東矢、とりあえず風呂に入れ。」 「っ、でも...」 「大丈夫、母さん達ならテレビ見てっから。もし何か言われても俺が誤魔化してやる。だからその汚れ、綺麗に落としてこい。」 「な?」と同じ高さにある頭をワシャワシャっと撫でれば「ん、ありがとう...」と小さく笑う。 僅かに腫れた頬と切れた唇が痛々しくて。 笑ってるはずなのに今にも泣きそうなその表情は、ガラにもなく『守ってやらないと』と…そう感じさせたー。

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