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13.佑(・)
東矢が俺を頼ってから二日。
自宅に戻った東矢は熱を出し、次の日は学校を休んだ。
心の不調が体にも影響したのかと、理由を知っているだけに複雑な気持ちになる。
「お前、ちゃんと寝てるのか?」
学校の帰り、プリントを届けるついでに見舞った東矢の顔はひどく疲れていて。
熱があることよりも、目の下のクマのほうが気になった。
「んー…実はあんまり寝れてない、かな。」
困ったようにハハ…と笑うのに、「そっか」とだけ答えた。
窓の外からはどこにそんな必要性があるのかと疑問になるほどのセミの鳴き声が響く。
自分の部屋とは違いクーラーのあるこの部屋は快適で、俺の定位置であるベッド脇に座り込みうだうだと時間だけが過ぎていく。
「…ありがとう、佑」
「んあ?何が?」
もうすぐ夏休みだし、どこか遊びに行く予定でも立てようかと考えているとふいにベッドから声をかけられた。
首だけ捻って振り向けば思いのほか真剣な表情の東矢がいて。
「自分のメンタルの弱さにちょっと凹んでたんだけどね...」
「..........」
「佑のおかげでなんか浮上してきた。」
「そうか」
「うん。」
それだけ話すと東矢はまた布団に潜り込む。
「安心したら、ちょっと眠くなってきた...」
「帰るか?」
「ううん、いて...」
「ん」
小さな欠伸と共に「ありがとう、佑」と呟く声。
それには答えず机に置いてあったマンガに手を伸ばし、ページを捲った。
「..........」
セミの鳴き声とページを捲る音、そしてカチッカチッと時を刻む目覚まし。
やがてそれらの音の中に混ざる穏やかな寝息。
「.....東矢」
小さく名前を呼んでみるが返事はない。
ソッと手を伸ばし、額に触れてみる。
.....熱は下がったみたい、だな。
本当に安心したのかよく眠っている。
ここに来たときに見せていた青白く疲れた顔はそこにはなく、弛んだ口許からは涎が垂れそうだ。
「バカ面...」
無防備な姿にフッと笑いが溢れる。
いつもと変わらない東矢のその寝顔に、ホッと息を吐いていたー。
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