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第1話-5

「外に出られたの」 急に上からかかった声に驚いた。見上げるといつのまにか母が目の前に立っていた。 「やっぱり、あなたに懐いてるのね。お昼寝中?」 「うん。もうしばらくしたら起こす」 「かわいいわね〜抱きしめちゃいたい」 「だめ。おれがやるの」 「ああ、そういえばこの子の処遇、考えたわよ」 母は上機嫌そうにそう言った。マシューは冷静を装って「どうするの?」と母の目をじっと見た。 「それはこの子を抱きしめさせてくれたら教えてあげる」 「むーーー……」 「ねぇダメなの?小さくて可愛いのに抱きしめさせてくれないなんて罰ゲームよ」 苦渋の決断だった。一度だけなら良いよ、と渋々許した。 母は彼の頭と顔を優しく撫でて一緒に寝転んで抱きしめた。彼が起きる気配はなく、ただ暖かい感触に身を委ねているようだった。 「で、考えてくれたの」 「ん?」 「この子、この後どうするのか」 「ええ。そりゃね。条件付きで我が家に迎え入れるわ」 「条件……?」 母は彼のふにふにとした頬を堪能しながら話した。 「この子に、あなたの魔力を移植します」 「は……?どういうこと……」 「あなたの魔力ストックとして、うちに来てもらう」 マシューは母が何を言っているのか分からなかった。 「魔力ストック?……魔力を移植って、もし拒否反応が出たら……」 「この子は死ぬわね。残念だけど」 子供を抱きしめ、愛おしそうに撫でている人間から発せられている言葉とは思えなかった。死ぬだと? 「そんな……。おれなら、ストックなんてそんなもの無くても……」 「いつまた昔みたいになるか、分からないじゃない」 「ねぇ、そんな条件なしに彼をうちに迎えられないかな」 「無理ね。あなたのお父さんや兄弟をどう説得するつもり?」 「……だって……」 わがままはよしてちょうだい、と母は強く言った。 そこでううん、と彼の目が覚めた。 「せんせ……?」 「あら、おはよう。もう少し寝ていても良いのよ?」 「おくさま……ですか……?なんて……?」 寝ぼけ眼で誰かを確認し、暖かさに負けて再び目を瞑った。声がまだ聞こえないのは本当らしい。 母は彼のまだ幼い寝顔をうっとり眺めながら言った。 「この子の怪我が治ったら魔力の移植をするわ。最初はあなたも簡単な手術を受けないといけないからね」 「もう、決定事項なのか?」 「ええ。もしこの話を蹴ったら、この子はアシュクロフト家に引き取ってもらうことになっているから」 「アシュクロフト……」 アシュクロフト家。悪名高い魔法使いの名家。よりにもよってあんな家に……。マシューはぐっと拳を握りしめた。あの家に引き取られたら彼はどうなるか……想像したくもない。 「どうして、あの家なの」 「他に引き取り手が無かったのよ。魔法使いでも無く、使用人として雇うには不適。だからよ」 「な、なぜ、彼を引き取ろうと……」 「分かるでしょう、マット」 母の声のトーンが急に落ちた。もちろん、理解していた。人として扱われないであろうことは。ああ、と落胆した。彼が無傷でいられる選択肢なんてひとつも無いじゃないか。 マシューも寝転がり、母から彼を奪うように引き寄せた。赤毛にキスをして彼の本名を囁く。彼は本名で呼ばれると酷く怖がるため、周りは名前を呼ばないようにしていた。彼はかすかに身を捩らせたが、すぐされるがままになった。 彼が、無事に魔法使いになれたら一緒に名前を考えよう。彼が呼ばれて嬉しい名前を共に探そうと、マシューは決心した。

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