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それ以降、お互い無言のままバスが到着する。プシュッーっという開閉音と共に降車口が開かれてバスに乗り込む。 乗車するなり、後方のステップを踏んで上がると、お互い左右二手に分かれた。最後尾の座席からひとつ前の左右の窓際。優作は運転席側で千晃はその反対側に座った。 一緒にいるからと言って優作と隣に座ることなど滅多にない。近づきすぎず離れすぎずの彼との関係そのものを表しているみたいで、今日はやけに胸が苦しい。 電車通学が圧倒的に多い、うちの学校はバスを使う学生は数少ない。下校ラッシュではあるものの、客は前方に疎らに座っているだけでエンジン音だけが聞こえる静かな車内。 ふと、通路を挟んだ優作に視線を向けると、窓に頭を預けて瞼を閉じていた。その寝顔が雑誌のモデルやら俳優やらを思い起こさせる程、整った美しい顔立ちに思わず見とれてしまう。 千晃は無意識に手で枠ぶちを作ってはふち越しに優作を覗く。ふち越しの彼を見た途端に自分以外に誰にも見せたくないと思ってしまった。優作が恋をしているから情が移っただけと思いたかったが違う。 もっとこう……独占的なもの。 篠塚を前にして照れ笑いをしていた優作を思い出すたびに、怒りの感情に似た嫉妬心が湧いてくる。   きっとあの男であれば、今こうして彼の隣に座っても許してくれるのだろう。 ここ最近、優作を見るだけで様々な感情が自分の中で生まれていくのが分かる。憎んだり、惨めになったり、愛おしく思ったり……。 自分も鈍感じゃないからその感情が何を差しているのか、気づいていた。 優作の寝顔を慈愛の眼差しで眺めていると、最寄りの停留所へ到着する車内アナウンスが耳に入り、我に返った。 千晃の自宅は優作よりも二つ早い。この二人の時間に名残惜しさを感じながら、千晃はバスの『止まります』ボタンを押す。案内によって意識が戻ったのか、優作は体を微動させるとゆっくり瞼を持ち上げた。 お昼寝から目覚めた子供のように目をこする優作の姿が愛おしくてたまらない。優しく頭を撫でてあげたい。

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