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隠せない心

飯田と辻本と過ごす昼休み。千晃はひとつのタブレットに身を寄せ合い、お決まりのアイドル動画の観賞会をしていた。 「あーやっぱり可愛いよね。俺の永遠の推し、みゆゆは」  溜息を吐くように呟く千晃の目線の先の画面には、某大所帯アイドル『ORIONGIRL(オリオンガール)』の真鍋美結(まなべみゆ)こと『みゆゆ』が映っている。 小悪魔な角を頭に身に付け、これでもかと言うくらいのフリルをあしらった、腿上スカートが男心を擽る衣装。  踊る度にスカートの中のドロワーズが見え隠れする姿にドキドキし、揺れる悪魔の尻尾に釘付けになる。観客に向けてウィンクをすれば、そのハートの尻尾の先で心ごと射抜かれてしまいそうになる。 普段であれば画面から片時も視線を外すことなどないが、今に至っては、彼女を堪能する気分にもなれずにいた。 原因は全て自分の中に秘めている恋心だということは気づいている。 「よっしー。改まってどうしたんだよ?」  千晃の溜息によっていつもと様子が違うことを察したのか、通路を挟んだ隣の席に座る辻本に問われる。 優作が下級生に恋をしたことによって、嫉妬心を抱くようになり、自分の気持ちを自覚してしまった。  恋愛に年齢や性別は関係ないとよく言うが、同性相手にこんな気持ちを抱いてしまったことに戸惑う自分もいた。気を紛らわせる為に推しの動画を見ても浮かんでくるのは優作の事ばかり。 忘れなくてはならない感情なのに……。 「確かに千晃は、あの大悪魔、椿に告白したことがあったよな」  飯田が薄ら笑みを浮かべたかと思えば、千晃の過去の黒歴史である、椿への告白を小突かれて耳朶が熱くなる。 「まじで?あの椿によっしーが?」 できれば掘り返されたくない昔話ではあったが、何の悪びれもなく興味津々に辻本が問うてくるのは無理もない。飯田は中学からの腐れ縁であるが、辻本に関しては二年のクラス替えから一緒にいる仲。椿の事だから、告白した男が噂されることは良くあるだろうが、入学当初、椿に告白したのが千晃であったことなど辻本はよく知らない。 「そうそう、入学して間もない頃に体育祭の委員で椿と一緒になって千晃が一目惚れしたの」 「えっ。あれ、よっしーだったの?」  ご丁寧に飯田が辻本に、告白した経緯を話してくれている。こうなってしまったら否定などしても余計に揶揄われるだけで逆効果だ。自分のことを曝け出す覚悟で飯田の話を黙って聞いていたが、予想通り、告白した相手が千晃だと知らなかった辻本が自分だと知るなり、口元を緩ませてきた。 これは完全に面白がっているやつだ……。

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