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「悪い?当時は割とガチだったんだけど」 「悪いも何も、無謀すぎでしょ。一目惚れってそれであの椿にいけると思ったのかよ」  声を上げて大笑いし始める辻本。行けると思っていたのかって、辻本からの辛辣な一言が胸にグサリと突き刺さる。 しかし、哀れみの表情で見られるよりは、一種のネタとして大爆笑されたほうがまだ救いがあった。 「そんなに笑わなくてもいいじゃん。つか、辻本の一言で俺、傷ついたんですけどー」 「ごめん、ごめん。よっしー、馬路最高だなって思ってさ。やべぇトイレ我慢していたの、漏らしそうだわ」 「さっさと行って来いよ」 怪訝そうな顔で辻本を見る飯田にそう促されて、辻本は涙を拭いながら教室を出て行った。 確かにアイドルのみゆゆも椿も、男の気持ちを誑かすような小悪魔な女性の象徴である。 千晃がそんな危険な香りのする人に惹かれる傾向にあるにしても、どこをどう切り取ったら優作へと恋の矢印が向いてしまったのかは不思議だ。 思い返せば篠塚に恋した時の優、可愛かったよな……。   こう、抱き締めたくなるような……。  屈んで顔を真っ赤にしていた優作を思い出しては、腕を胸の前で合わせて輪を作り、抱き締めている感覚を想像する。  ふと、飯田と視線がかち合い我に返ったところで、自分が不審な行動をしていることに気が付いた。 「何、千晃。桜田のことでも想像してた?」 「ふぁぃ⁉」  真意を探るような鋭い視線でそう問われて、自然と背筋が伸びたと同時に動揺で声が上擦る。 「なっ、なわけないじゃん」 「でもさ。ここ最近、桜田より俺らといることの方が多くね?いつも昼になると桜田のこと待ってるだろ」  優作が篠塚と連絡をするようになってから、彼が学校に来ていても別々の行動をとるようになった。  教室に居ても、お昼になるとすぐに出て行く優作に、挨拶程度の会話はしても自ら雑談をしに行くように絡みに行かなくなった。それは千晃が自分なりに出した、優作を遠ざける為の最良の手段だったからだ。  彼と関わろうとしなくても、彼のことを考えてしまっている現状なのに、優作と接してしまったら自分の気持ちは制御ができなくなってしまうのではないだろうか。 篠塚の存在に嫉妬して、醜い姿を優作に晒してしまうのであれば、自分の気持ちに折り合いをつけるまで離れていた方がいい。 「いや……。それは、優にも優の都合があるっていうか……」 飯田に本当のことを話すわけにもいかず、曖昧に頷く。 「あー。恋人できたから相手にされなくなった感じ?」  そんな矢先に、近いところで的を射てくる飯田の思考にドキッとさせられながらも、完全に否定もしきれない。 「別に相手にされなくなったわけじゃないよ。いや、でも半分は合っているのか……?いやいや……つか、喧嘩売ってる?ただの友達なんだから相手にされるとか、ないじゃん?」 飯田に読まれてしまいそうな心に動揺し、自問自答を繰り返しながらも頭を左右に振り、口元に両人差し指を罰点にして持ってくる。 「別に、そんなつもりじゃないけど。千晃って、わかり易く顔に出るタイプだろ。別に否定しなくても俺は気にしないよ。そういうマイノリティ」 「顔に出るってそんなつもりじゃ……」  飯田に勘付かれてしまう程にわかり易い表情をしているのだろうか。それとも飯田にはどこかの週刊少年誌の主人公のように特殊能力みたいなものが備わっていて、俺の心も身体も丸裸に出来る透視能力があるのか……?

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