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「まさか、飯田君……。きゃっ。エッチ……」
そんな中二病みたいなことを考えていたら、急に恥ずかしくなり、両手を交差して胸元を隠すと身体を捩らせた。冗談のつもりで、おどけているものの、三人の中では断トツで飯田が賢いだけにありえなくもなかった。
すると、唯でさえ怪訝な顔をして千晃のことを見ていた飯田の眉間に更に深く皺が刻まれる。これ以上は、中学からの腐れ縁とは言え、愛想尽かされかねないと察した千晃は、「冗談だろっ」と補足のつもりで一言添えると眉の皺が伸びていったので胸を撫で下ろした。
「知ってる。千晃のことだから俺のこと超能力でも使って心読んだとでも思ったんだろ。だから、辻本に影響されてアホなこと言い出す友人を睨んでやった」
自信満々にそう言い放つ飯田に、千晃の先ほどの不安は杞憂だったのだと気づかされ、精神的な疲労が重くのしかかる。賢いから故の飯田の心を抉るようなハードな突っ込みは、馬鹿で声の大きい辻本を仲間に入れてから更にレベルアップした気がする。
「飯田君……酷い……。それ地味にグサッってくるんだけど……」
顔を両手で覆い、泣き真似をする。飯田の氷河期のような冷たい言葉には、慣れたものだし、左程傷ついてもいない。なんなら茶番程度の戯れに思っている。
「千晃ってさあ、桜田待っているとき、明らかに楽しそうだよな」
飯田にそう問われて、千晃は覆っていた手の人差し指と中指の隙間から瞳を覗かせる。
「そう?」
自覚はなかった。確かに、毎日のように優作を待っていた昼休みは、密かな楽しみではあったし、飼い犬のようにワンワンと彼の後ろに着いて歩くのも嫌ではなかった。むしろ、優作と関りを持たなくなったここ最近の方が寂しいくらいだった。
「桜田の気持ちは分からないけど、椿にできたんだから。桜田にも当たって砕けることできんじゃないのか?」
「いやいや、砕けちゃダメでしょ。つーか、別に優には特別な感情を抱いているわけじゃ……」
否定すればするほど虚しくなる。一層のこと、飯田が言うように玉砕覚悟で告白してしまった方が楽なんじゃないだろうか。
だけど、その後の優作との関係が終わってしまうのではないかと思えば思うほど怖くて踏み出すことが躊躇われる。
そんな優作の話をしていると、教室前の廊下を渦中の人物が横切ったのが見えた。
「あ、桜田通ったけど。行かないの?」
行ったところで、きっと今の優作にとっての優先順位の上位に自分は入っていない。優作が学校に来て早々に教室にも寄らずに向かう先は分かっていた。椿と篠塚がいる屋上だ。嫌いな椿もいるくせに、篠塚がいるからと大分やせ我慢をしているのだろう。
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