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「それって本気の話?みゆゆはどうしたよ」
「うん。それとこれとは別だよ。なんか……。一緒にいるうちに、好きだなって感情が芽生えちゃって……」
優作を好きになった経由を友達に話す恥じらいと、未だに読めない辻本の反応に、肩を竦めて怯えながら、正直に打ち明ける。その傍らで口元を綻ばせている飯田は千晃の様子を楽しんでいるようで、殴打したくなった。
「まあ。でも、桜田くんならよっしーの気持ち分からなくはないかな。カッコいいって言うより綺麗だし」
飯田はともかく、辻本にはあまりいい印象は与えないだろうと思っていただけに、ふむふむ、と腕を組んで深く頷きながら、納得した様子を見せている姿に安堵した。
アイドルで繋がった仲。日頃、面白おかしくふざけ倒している仲だったとしても、寛大に自分のことを受け入れてくる友人がいることは、涙が出るほど有難かった。
やはり持つべきものは友達なのだろう。
「つか、なんだ。結局、千晃はあのあと桜田に告白しなかったわけか」
「するわけないじゃん。つか、無理だし。優は今、好きな人にメロメロだから……。いいんだよ、このままで……」
自ら口にしたことで、数日前に屋上で見た、優作の篠塚に向ける慈愛に満ちた眼差しが脳裏に蘇ってきては虚しくなる。玉砕覚悟で椿に挑んだ時とは関係性も気持ちの持ちようも何もかもが違う。そう簡単に伝えられるものじゃない。否、伝えちゃいけない。
優作とは今の関係以上のものなんてないし、自らそれ以上を求めてはいけない気がした。
「よっしー。桜田っていえばさあ……噂あんの知ってる?」
辻本が握ったスマホを上下に振って、千晃に問う。
優作の噂……?そんなの耳にしたことない。
もしかして、彼の恋愛対象が同性だって言う話ならとっくの昔に知っているが……。
「何?噂って」
辻本が神妙な面持ちで自らのスマホ画面を、千晃の方へと向けてくるとスクロールし始めた。中身は学校の裏掲示板だ。千晃自身、ゲームやアイドルのSNSを覗くことはあるが、自らアカウントを立ち上げて、愚痴やら写真などをあげることはしない。ましてや学校の掲示板なんて存在は、耳にしたことがあるが、そんな個人の見解で繰り広げられる会話を見たところで自分にとっては不要な情報に過ぎなく、興味がなかった。
案の定、辻本の見せてくれたものの中には『白衣が汚い科学の末永(すえなが)』や『学校のアイドル椿さんを守り隊』などと言った学校の教科担任の悪口や椿についての話題を示唆するスレタイが立っていた。
すると、上から五、六番目くらいの所に『魔性のゲイ?三年A組、桜田』と題名がつけられたスレタイを見つける。辻本は透かさずその題名のスレをタップして、中を開いてみせてくると、目を覆いたくなるような内容ばかりの書き込みに緊張で、脈拍が上がっていく。
「桜田がさぁ、夜な夜な男連れてホテル街歩いてるって話出てんの。桜田くんが好きなよっしーとしてはどうなのって話」
辻本の言葉を聞き流しながらも、次第に込みあげてくる怒り。辻本が千晃にわざわざ教えてきたのは、揶揄っているわけじゃないと分かっている。深刻そうに一緒に画面を眺めている姿から心配してくれているのだろう。
千晃の怒りの矛先はどこの誰かも分からない匿名で、あることないこと書き込んでいる奴らだった。
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