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千晃の恋心と優との亀裂

午後六時を過ぎた頃、飯田と辻本とファーストフード店を後にし、駅前で解散した。相変わらず、九割がたアイドルの話ではあったが、自分の気持ちを他人に吐露したことで少しだけ気持ちが軽くなった気がする。  自宅の最寄り行のバス停へ向かおうとスマホの時計を見ると、バス時刻までまだ三十分ほど時間があった。 暇を潰すために近くのコンビニへ入ろうと出入口に向かう途中で、店から出てきた男二人が腰を抱きながら歩いてはすれ違う。  なんだか異様な光景に、店の扉を開ける寸前のところで立ち止まって振り返った。 遠ざかる二つの背中をじっと見つめる。ひとりは灰色のスーツ姿の男で、もうひとりはその男に腰を抱かれている、見たことある制服の男。 否、今自分が着ている制服と一緒だ。ということは同じ学校の奴。  ふと、先ほどまで飯田と辻本と話をしていたことを思い出す。あの噂がもし本当であるのなら、優作もこんな風に男に抱か れ歩いているのだろうか。千晃のことでさえ鬱陶しく思うほど に惚れている|男《ひと》がいるのにそんなわけがない。 だけど、青年の後ろ姿には見覚えがあった。 髪の毛が肩まであり、ハーフアップにしていて、まるで女性みたいに中性的な容姿で……。 男二人がコンビニの駐車場に停めてあった車の方へと近づいていく。一際他の車に比べて存在感を放つ黒くて高そうな車。自動車に関して詳しいわけではないが有名なところではいくつかは知っている。千晃が知っている中で一番に出てきそうな国産車だった。 二人が左右で分かれ、その高級車の助手席に乗り込もうとする制服の男の横顔を見た瞬間に、まさかと思っていたことが確信に変わる。千晃は、そうだと分かると自然と体が動き、サイドドアを開けて乗り込もうとする男の肩を掴んで引き止めていた。 「優?」 肩を掴み、振り返った顔は、紛れもなく優作だった。 今朝の活き活きとした表情とは違い、覇気のない冷たい視線。だけど、得も言えぬ色気を放っていて、千晃の心の奥底に眠る欲のような感情がドキッと波打つ感覚を覚えた。  思考が止まる程の優作の姿に見とれてしまっていると、彼は千晃を無視して車に乗り込もうとしたので、慌てて手首を引っ掴んだ。誰がどう見ても、例のパパ活と問われても否定できない。この状況はあまり好ましくない気がする。  千晃はそのまま、扉を勢いよく閉めては、車と男から離そうと試みたが、優作の足が鉛のように動かなかった。 「吉岡、いきなり何すんだよ」 「何はこっちのセリフなんだけど、優こそなにしてんの」 「別に……」  掴んだ手を振り落とされ、再びドアに手を掛けようとする優作の肩を掴んで引き止める。 「別になわけないじゃん、あの人だれ」  助手席側のドアウインドウが開けられた奥の運転席に目線を映すと、三十代から四十代くらいの男が煙草を咥えて、こちらのやり取りを待つかのように一服していた。 いくら仲の良い兄弟であっても、腰に手を回してコンビニから出てくるなんてことはしない。

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