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「ねえ、吉岡。俺のこと慰めてよ」 「え?」  千晃が言葉の意味を理解する間もなく、手首を引き寄せられて立ち位置が逆転したことに驚いていると、優作の顔が近づいてくる。遊具と彼との間に板挟みになり、近距離で見つめられ、心が五月蠅いくらいに警笛を鳴らす。 「俺を抱いて兼のこと忘れさせてよ」  いきなりの優作からの誘いに狼狽える。 優作のことは好きだけど、抱きたいだとかは考えたことはなかった。それは想い合ってからの話に過ぎない。見てわかる通り、今の優作は千晃に縋ってくるほど自暴自棄になっている。いくら彼に想いを寄せているからって誘いに乗ったところで彼のためにはならないのは分かっていた。 「優、何言ってんの。悲しいのは分かるけど冗談はっ……」 「吉岡さあ……。俺のこと好きだろ?」  ここは友達として正しい形で彼の心を癒してあげるべきだ。千晃は掴まれた手首を引き抜こうと足掻いたところで、彼に確信を突かれて手が止まる。ドドドっと汗が吹き出しそうなほどの緊張で心音が更に速まった。 全てお見通しだとでも言うように、右手の人差し指を胸元に押し付けてくる。彼に気づかれないようにと、警戒をして上手くやり過ごしていたつもりだったのに、意図も簡単に見抜かれてしまっていたショックと優作が何を考えているのか分からない怖さと焦りが織り交ざる。 「そ、そんなわけないじゃん」 「俺が振られて喜んでいるんじゃないの?」 「違う」  違うなんて反発しているけど、優作の言った通りだった。数分前の自分は、篠塚に振られたと聞いて安堵していた。また優作と一緒に過ごせる時間が増えるとすら思ってしまっていた。   好きな人の幸せを願いながらも、心から喜べない自分の醜さが嫌になる。そんな千晃の真意を見透かし、捉えて離さない瞳から視線を逸らすと、表情を崩さないように、平常心を保つのに精いっぱいだった。 暴かれてしまったとしても、認めてしまいたくない。 認めた先の優作の反応を知るのが怖い。 「違くはないだろ?よしおかあー。そういうつもりで俺のこと連れ出したんだろ?」  ドンっ、と頭上に優作の右腕が置かれて体がビクリと跳ねる。更に顔を近づけてくる優作から顔を逸らしても、第二ボタンまで開けているワイシャツから見える色白な首元が目に入り、強く目を瞑った。 「だから違うって、俺は友達として優には……っん」  優作の煽りに屈することなく否定を続けていると、言葉を遮って優作が左手で千晃の右肩を遊具の壁に押し付けてくる。その瞬間に、冷たい感触が唇に触れた。

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