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「んっんっ……。何すんだ……」  一度離れた隙を突いて、言葉を発しても再び彼の唇に塞がれてしまった。 優作の唇がやけに冷たく、体温を持たない怪物にキスされているような感覚。口内を開けろと言わんばかりに唇をなぞってくる舌にゾワッと身の毛がよだち、千晃はあまりの心地の悪さに、勢いよく彼を突き飛ばしていた。 乱れた息を整えて制服の裾で唇を強く拭う。こんなに気味の悪いキスは初めてだった。 それは同性同士だからとかじゃない。触れ合った唇から冷たさと乱暴さを感じて、優作の心が自分にあるキスではないと全身で感じたからだ。 千晃に突き飛ばされた優作は、反動で身体をよろめかせていたが足を踏ん張らせて、体勢を整えてくると、再び此方に迫ってくる。 「別に吉岡と付き合ってやってもいいよ。兼はダメになっちゃったし。お前って意外と顔悪くないよな。何して欲しい?もっとキスしてほしい?それとも……」  半ば投げやりにそう提案してくる優作が、鼻で嘲笑う。     彼が上から目線であることは日常茶飯事ではあるが、今の千晃にはその態度ですら頭に血が上る程、腹立たしかった。 「ふざけんな」  眉を下げて饒舌に喋る優作の胸倉を掴むと、腹部に向かって右手の拳を振った。力を込めた拳が彼の脇腹に入ったのか、優作は腹部を両腕で抱えるとその場に屈み込んでしまう。 「優、お前ってそんな奴だったっけ。そんな最低な奴だと思わなかった。絶交だわ」 痛そうに唸る優作を見ても、労わる気持ちにならなかった。 知ったことか……。 全部、吹っ掛けてきた優が悪い……。  千晃は逃げるように公園から立ち去っては、そのまま自宅までの道のりを歩いていた。夜風にあたり、怒りの熱が冷めてきたのか、冷静な頭で考える。 優作が人の心を踏みにじるようなことを言う奴じゃないって分かっている。好きな人に振られて、傷心した心を紛らわすのに必死で衝動的に起こしてしまっただけ。 分かっていても、千晃も優作のことが本気で好きだからこそ、そんなことを言う彼が許せなかった。  電灯に照らされている足元が涙で滲む。流石に絶交は言い過ぎたかもしれない。もっと自分が大人になって優作を励ましてやれれば良かった。取り返しのつかないことを彼にしてしまったことを千晃は深く後悔した。

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