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千晃は場違いなのを承知で、少しの情けで腰を屈めては優作の座る元へと近づく。  堂々と座る背中の肩を叩き、「ちょっと、優」と話し掛けた途端に、カウンターから伸びてきた手に腕を引っ張られてよろけた。 「もしかして、噂の千晃くん……?」 「ふえぇ⁉」  天井を向いた長いまつ毛に、切れ長の目をした瞳に見つめられる。こんな美人を間近にすることなど生まれて十七年の中で早々にあるものじゃないだけに、顔の熱が上昇していく。と思えば、更に追い打ちをかけるように両頬を細い両掌に挟まれては、指で摘ままれてフニフニされた。 「んもぅー。ほっぺがプニプニしてて、かわいいっ」  偏見ではないが、この手の女(ひと)は食って掛かるハイエナのように我が強い感が否めない。まさに今、自分はこの女(ひと)に食われてしまうのではないかという、肉食獣に追われる兎の気持ちになった。 「あーもう、肌もスベスベ。話でしか聞いてなかったけど、なかなかいい男じゃなあーい?」  どこの誰かも知らない人に触られる怖さと、この手の美人さんと目を合わせる恥ずかしさで気絶しそうになる。 「おい、楓。吉岡が怖がってるけど」  全身の緊張でどうすることもできず、人形のように触れられるがまま突っ立っていると、引き剥がすように優作に手首を引っ張られた。   優作に引き寄せられたことで、女性の手から免れたが、安堵よりも優作に触れられたという事実の方が重大すぎて、先ほどの何十倍も心拍数が上がった。直ぐに離された手が名残惜しく思うほどに、今の状況で不謹慎だと分かっていても、自分は優作のことが好きなのだと痛感する。 「ごめんなさいね。優ちゃんが友達連れてくることなんて滅多にないから嬉しくて。千晃くん、遠慮なく座って。未成年だからジュースしか出せないけど」 「いいえ……少しびっくりしましたけど」 眉を下げて謝ってくる女性に優作の隣を促されて、カウンターの丸椅子に座る。 「えー。楓、酒出してよ」 「嫌よ。制服なんて未成年ですって言っているようなもんじゃない。そんな人にお酒は出せません」 テーブルに両肘をついて強請るように優作が言う。彼のこんな寛いだ姿を初めて見る事から、目の前の楓という人には心を許した仲のようだった。 自分以外にそんな人が彼にいたことに驚いたが、よくよく考えれば両親の可能性だってある。色んな憶測が飛び交う中、二人のやり取りを黙って眺めていた。

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