そんな優作との会話を繰り広げている間に、手早く濃い色のオレンジジュースらしき飲料が入ったグラスが並べられる。 千晃は、目の前に置かれたグラスを一礼して手に取ると、恐る恐る口をつける。 間違いなく果汁１００％のオレンジジュースでホッとした。 「じゃあ、私服ならいいんだろ」 「そういう問題じゃありません。ったく、叔父の店だからって何やってもいいと思ってるんだから……」 　優作は不満そうにグラスに口を寄せて、一気に飲み干す。 「楓だって十代のときは飲んでいたんだろ？まだ男の格好の時、男口説いて遊んでいたんだろ」 　仲睦まじい気心の知れたものとの会話……。 そんないじけた優作が可愛いと思っては、ふと先ほどの会話を反芻した。今、叔父の店とか男の格好がどうとか言っていなかっただろうか。此処は叔父さんの店で目の前にいる女性は一体誰なのだろう……。話している様子から母親っぽくはあるが……。 それに男の格好をして口説いていたって益々謎が深まる。千晃の中で優作とこの人の関係が頭で整理が出来ず疑問ばかりが浮かんでくる。 「あの……。楓さんと優ってどういう関係なんですか？男の格好って、楓さん男装家だったんですか？」 　頭をフル回転させて、そう問いかけるとその人は吹き出すように笑い始めた。千晃なりに真剣に問うたつもりだったが、何かおかしなことでも言ったのだろうか。 「男装家なんて、いやだぁー。千晃くんったら、面白い子ね。その逆よ、逆」 「楓は俺の叔父だから」 「え……」 優作がボソリと呟いたことによって点と点が線で繋がる。目の前にいる女性だと思っていた人は、彼の叔父で、女性の姿をしている。 　世の中には様々な嗜好の人がいるとは耳にするし、テレビなんかでも見た目は女性でも身体は男性だとカミングアウトしている芸能人はよく目にする。 　それにしても、一目見て叔父だなんて分からない程に綺麗な人であることは間違いなかった。 「自己紹介が遅れたわね。|桜田楓《さくらだかえで》。この子の叔父よ。よろしくね、千晃くん」 　言葉を失うほどに口を開けてあんぐりとしていると、楓がウィンクを飛ばしてきた。 「こちらこそ、叔父さんだなんて思わなかったです。楓さん、凄く綺麗なお方ですね」 「やだぁー。千晃くん、ほんといい子ね」 お世辞抜きで本心を言うと、楓の頬が赤く染まり、照れたように勢いよく肩を叩かれた。あまりにも強い衝撃に、飲みかけていたジュースを吹き零しそうになる。