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「じゃあ、千晃くん。あたしみたいな女どうかしら?年は取っているかも知れないけど、包容力はあるわよ?それにあっちのほうも……」
千晃を魅惑の世界へと誘うように頬へと伸びてくる手。獲物を捕らえて放さないと言ったように、千晃を見る凄まじい眼力に圧倒されて、思わず身を引かせる。
このまま引きずり込まれそうな……。
なのに、決して下品ではないのは気品あるその容姿のせいなのか……。
優作と言い、桜田家の血筋はこうも美形揃いなのかと思い知らされた。
「おい、吉岡を汚すな」
楓の指先が頬に触れる手前で、隣から咳払いと共に冷ややかな視線が彼女へ向けられる。
「失礼ね。汚してなんかないわよ、大人の所作を教えてあげているだけよ」
そんな優作に物怖じせずに、再び千晃に向かってウィンクを飛ばしてくる楓に背筋がゾワっとする感覚を覚えた。
「|一志《かずし》のくせに」
そんな千晃を余所に繰り広げられるやり取り。優作のボソッと吐き捨てるように呟いた一言で、楓の眉がピクリと上がる。
「ちょっと。あんた、今なんつった?」
「か・ず・し」
強調するように優作が呼んだ名前にテーブルが叩かれ、グラスが揺れる。
「その名前で呼ぶな、つっただろ‼」
綺麗な人からは想像もつかない、野太い声が響き渡り、愕然とする。明らかに楓さんから発せられた声で間違いない。そんな彼女の声が店の他の客にも聞こえたのか、『こらこら優作くん。楓ちゃんを怒らせんじゃないよー』と陽気な野次馬の声がする。
「やっぱり楓が男になるとこええっ……」
怖いと言っている割には声を震わせ、腹を抱えて笑っている。すぐ隣の千晃は、何処かのヤクザものが来たのかと怖気付いていたというのに……。
「驚かせてごめんね、千晃くん。でも、今聞いた名前は絶対に忘れてね。あたしの名前は楓だから」
「はい……」
口元は笑っているけど目が笑っていない、彼女の訴えに大人しく頷くしかなかった。これ以上は深く訊かない方が、いいのかもしれないが、彼女の反応からして一志は、楓の本名なのだろうかと憶測が立てられる。
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