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友達のままで
行き交う人々の中で、優作の背中を見失わないように掻き分けて早歩きをする。
足早に歩く優作のペースが速いのと、すれ違う人を避けながら進んでいるせいか、彼に上手く追いつくことが出来ずに、漸く追いついたのは駅構内に入ったところだった。
勢いで出てきたものの、帰宅ラッシュでごった返している電車の中で話をする状況にもなれず、行き同様に何も言葉を交わさずに家の最寄りの駅まで到着してしまった。
お互いの乗るバス停まで歩き、目と鼻の先に見えてきたところで、「時間を見てくる」と一言残して小走りで時刻表の元まで行く。
腕時計と時刻表を交互に見比べてみると、現在の時刻は二十一時二十分。十分前にバスが出て行ってしまった後だった。次のバス時刻まで一時間もある。夜も遅いし、帰宅する頃には零時近くになりそうだった。
「優、バスないけど少し戻って駅でタクシー拾う?それとも待つ?」
ゆっくりと此方へ向かって歩いてくる優作に声を掛ける。
「いや、歩く」
すると優作は、どちらも選択することなく、バス停を通り過ぎると道路沿いを歩いて行ってしまった。
当然、このまま優作と別れて帰るわけにいかない、千晃も優作の後を追いかけると肩を並べて歩く。
スナックに居る時は楓が間にいたから特に気にならなかったが、いざ二人きりになると気まずい空気が流れている。でも、優作と話をするなら今しかタイミングがなかった。
「優。ちょっと寄らない?」
千晃は視線の左側に大きい公園が見えるとその場に立ち止まる。それに気付いた優作も足を止めた。
一週間ほど前に優作にキスをされ、絶交を言い渡した公園。目配せだけで、千晃の意図を察したのか、優作は「あぁ……」と静かに頷いて、千晃よりも先に公園内へと入っていった。一先ず優作が提案に乗ってくれたことに安堵する。
園内に入って優作が真っ先に向かったのは、ブランコだった。
彼は二つあるうちの右側に腰を掛けて、膝を屈伸させながら前後に揺れ漕いでいる。
俯いて足元を眺めながら、今彼は何を思っているんだろうか……。
千晃は彼の目の前の周りの黄色い塗料で塗られた柵に腰を掛ける。つま先で円を描きながら、最初の言葉を考えてみるが、なかなか切り出せずにいた。
このまま黙ったままじゃ何も変わらない。
この恋心にケリをつけると決めたのだから自分から行くしかない……。
千晃は柵を握って、深呼吸をすると今まで以上の緊張を抱きながらも、立ち上がって優作の元まで歩き、目の前で立ち止まった。
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