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近寄ったことで気配に気づいたのか、俯いていた優作の顔が持ち上がると、千晃は深く頭を下げる。 「優、絶交なんて言ってごめん」  自分から突き放しておいて虫が良すぎる話だと分かっている。あの時、彼の気持ちを汲んで、友達として温かい気持ちで慰めてやれなかった自分の精神的な未熟さを、この一週間何度も後悔した。 「いや、俺の方こそ……。ごめん。お前の気持ち踏みにじったこと言って……」 「え……」  頭上から降りてきた言葉に思わず頭を上げる。許してもらえるなんて期待をしていなかったから彼から謝ってきたことに瞠目した。   優作はブランコの椅子から立ち上がり、目を伏せ、唇を震わせながらも間違いなく、千晃に向かって話してきている。 「言い訳に聴こえるかもしれないけど、兼に振られたばかりで、気が立っていて……。忘れたかったのにお前に邪魔されたから、余計にムシャクシャして、お前の気持ちなんて考えずに発言した。だけど、振られた以上にお前に絶交されたままでいるのは辛くて……。凄く後悔したんだ……。できればお前と友達はやめたくないっ……」  途中で言葉を詰まらせながらも訴えてくる優作が、決して冗談で言っているわけじゃないことが伝わる。 千晃の想いとは別の方向を向いていたとしても、優作が未だに自分と友人関係を続けていきたいと思ってくれていたことは、涙が溢れそうなほど嬉しかった。 彼も彼なりに悩んでいたのだろうか。 悩んで苦しみながらも、伝えてくれた。 「優はそういう奴じゃないことは分かっているよ。俺も冷静に考えずにその場の感情で言っちゃったのも悪かったし……。怒っていないって言ったら嘘になるけど、絶交したいとまでは思ってない。でも……」  今度は俺の番だ……。  優作がちゃんと今の胸の内を打ち明けてくれたから、千晃自身も告げなくてはならない。既に本人に気づかれていると分かっていても、自分の口から告白して清算しなければならない。 「でも……。優はもう分かっていると思うけど、俺は優のことが恋愛感情として好きだから……。優の言葉でちゃんと振って終わりにしてほしい……」 「吉岡……」  叶わないと分かっているからこそ逃げるのではなくて、自分の気持ちとして吐露することで全て終わらせる。 この気持ちを引きずったままじゃ前に進めない。 だから、彼から片時も視線を逸らすことはせずに真っすぐ見つめる。千晃の緊張が優作にも伝染したのか、彼は強く唇を噛みしめると両掌を強く握った。相手の気持ちを受け止めて振る方だって楽じゃない。 恋することの辛さ、振られる辛さを分かっている優作だからこそ、負担を掛けていることは重々承知している。 「吉岡、俺はゲイだけどお前をそういう風にみたことは一度もない。この先も……。きっと。だから、ごめん」  結果が分かっていても、本人から直接聞く言葉が胸にずっしりと重みを感じる。誰かに振られるのは何度だって心臓が強く握り潰されたように苦しくて悲しい……。  千晃は溢れそうになる涙を堪えては、俯いて息をのみこむと、顔を上げた。 「ありがとう。優……。じゃあ……」 今回の告白は優作とどうこうなるのが目的じゃない。優作は『友達をやめたくない』と言ってくれたが、こんな邪な感情を抱いている千晃と変わらずの関係でいてくれるだろうか。  重荷になったりしないだろうか……。  優作のどこか浮かない表情が気にかかっていたが、千晃は今できる精一杯の笑顔で右手を差し出した。

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