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彼は友達でいることを拒否しているわけじゃない。千晃の気持ちを思ってくれているんじゃないだろうか。そんな千晃を心配してくれる優作の優しさが嬉しいような……。
しかし、そんなのは慣れっこだった。辛くて耐えられなくなる程、自分の心は軟じゃない。
「そうだね。優って名前の通りやっぱ優しい奴だよなー……。でも俺は構わない。恋人同士になれないより友達じゃなくなる方が嫌だ。でも、俺が優のことが好きな気持ちはすぐに無くすことはできないから、優にとって俺の気持ちが邪魔じゃなければ、もう一度、友達でいてほしい……。いてください」
自分の胸の内をすべて曝け出して、頭を下げては、再び右手を差し出す。暫くして、右手に感触がし、顔を上げると目を伏せながらも仄かに頬を赤らめて、優作が左手を重ねてきていた。
「邪魔も何も……。俺は最初に言ったことが本心だから、お前がそれでもいいって言うなら……。そうしたい……」
「まじ?」
優作が触れた右手から嬉しさが込み上げてくる。思わずギュッと握り返し、千晃の問いに頷いた後、「吉岡、握り強すぎ」と言われて慌てて手を離した。
「ごめん、すげぇ嬉しくてさっ……。優とまたこうやって話せるんだなーって思ったら」
優作への了承を得た安心感から、肩の力が抜けると自然と笑みが溢れてくる。目の前の彼も絶交を解消することが出来て、安堵したのか、深く息を吐いていた。
振られた悲しさがないと言ったら嘘になるけど、彼との関係はこのままが一番なのだと再確認した。
気持ちを打ち明けた今、進む先は前しかないのだから……。
「優。安心したらお腹減ったんだけど、仲直り記念でラーメン行かない?」
千晃はその場で大きく伸びをすると、優作に問う。お
店では何も食べていなかったし、晩御飯はまだだった。
「お前の奢りならいいけど」
「よし、決まり。近所にさぁ、美味いラーメン屋があんの」
近所の大通り沿いにあるラーメン屋。あそこなら夜中まで営業しているはずだから、入れるはず。
千晃は先陣を切って、公園の出口へと向かうと、背後から「そんな夜中にやっている店あんのかよ」と問われて、振り返っては自信満々に親指を立てて応えた。
「もち。そこの味噌が美味くてさ、いつか優を連れてきたいと思っていたんだよねー」
感情なんて時間が経つにつれて移り変わっていくものだ。
今は辛いかもしれないけど、いつか年を取った時にお酒を吞みながら笑い話にできたらいい。
だから今は、優作にちゃんと好きな人ができるまで見守りたいと思う。
彼が、また辛い想いをして苦しんでいたら、何時でも助けてあげられるような一番の親友でいれたら、それでいい。
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