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梅雨間近の雲がかった朝に、兼から昼に話があると呼び出された。椿抜きでの兼からの呼び出しは、先輩後輩の関係になってから初めての事で胸が高鳴り、柄にも似合わず朝から登校した。
吉岡の何処か自分を意識したような態度が気になりはしたが、彼とは友人関係のままでいたかった優作は、彼から何か言ってくるまでこの件に関しては知らぬフリをすることを心に決めていた。
そんな午前の授業を終えて、真っ先に向かった先は屋上。椿と三人で昼食を囲っている場所だった。
屋上の扉を開くと、既にベンチに腰を下ろしている兼の姿を見止める。入り口からの優作の気配に気づいたのか、兼は優作の姿を見ると素早く立ち上がり、一礼をしてきた。
普段であれば『桜田先輩』と名前を呼んで挨拶をしてくれるのに、今は黙ってじっと見据えてくる彼に違和感があった。
ただの相談事ではない不穏な空気を感じ取りながらも、優作は少しでもこの空気を払拭させようと笑いかけながら兼の元へと近づく。
「早いね」
「はい」
頬を緩ませて声を掛けても、兼の表情は固まったまま。
「また椿のことで何かあった?相談に乗るよ?」
「いいえ、桜田先輩のことについて知りたくて呼び出したんです」
兼の鋭い眼差しにトクリと胸が波打つ。椿の事しか興味を示さなかった兼が、自分に興味を向けてくれた。優作の中で微かな期待が芽生える。
椿の相談はもちろん、彼が椿の前で優位に見せることが出来るように自分は悪者に徹し、彼を立ててきた。全部、兼の為に。兼のことが好きだから。
でも、そんな兼は優作の気持ちに気づいて、頼れる先輩から恋愛対象として意識し始めてくれているんだろうか。自分に都合のいい話だと分かっていても、膨らむ期待は止まらない。
「単刀直入に聞きます。桜田先輩って、同性愛者なんですか」
決して穏やかではない、兼の槍で突いたような問いかけに、舞い上がっていた心が一気に萎んでいく。
何度も見てきたから分かる。軽蔑を含んだ眼差し、優作が望んでいた期待とは真逆の反応。
「学校の掲示板知っていますか?僕もまさかとは思っていました。桜田先輩に限ってそんなことはないって。でもこの間、僕の友達が見たんです。あなたが昼前に校門前で男の人の車から降りてくるところを」
鼓動が五月蠅いくらいに早くなる。利害関係のある相手に朝までいて欲しいと言われ、ホテルで一夜過ごしては、学校まで送り迎えをしてくれることが度々あった。
受け入れる側である優作は身体のだるさもあり、相手の厚意に甘えてしまっていたが、兼を好きになる前までも当たり前にしていたことだし、誰かに見られたところでと思っていたが不覚だった。
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