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「あれは……。俺の叔父なんだ。よく送り迎えをしてくれて……」  事実なだけに苦し紛れの嘘だと判っていても兼だけには知られたくなかった。 「じゃあ、叔父さんと……。『身体大丈夫?また、今度もよろしくね』なんて分厚い茶封筒渡されながら会話するんですか?彼、早退した日だったので、確かに校門前でその会話を聞いたって言っていました。その茶封筒ってお金ですよね?」 「それは……。叔父はお金持ちで……」 「先輩の裏の噂って沢山あるんです。ホテル街で男の人とキスして手繋いで歩いていた。だとか、夜な夜な遊び歩いているだとか」  兼の視線が次第に逸らされていき、差別でもするかのように距離を置かれる。  自業自得だと思った。自分で苦しいと分かっていて兼に近づいたのにも関わらず、耐えることが出来なかった。   誰かの体温に触れて気持ちを紛らわさないと心が保っていられなくなった。そんなことを平気でしていいことではないと分かっていても、己の心の弱さに抗うことができなかった。 なのに、兼だけには格好よくて頼りになる、憧れる先輩のままでいたいと思ってしまう……。  ここまで来たら下手に嘘を吐いたところで、余計に疑念を抱かせてしまう気がした。いずれバレてしまうこと、それなら一層の事、打ち明けてしまった方がいい。 「嘘ついてごめん。兼の友達が言ったことは間違いないよ。男の人と、その……。お金をもらって体を重ねることはよくしている。それに、俺の恋愛対象は同性だし、同性と……。遊ぶなんてことはよくあることで……」  それでも先輩は先輩です、だなんて肯定的な言葉を言ってくれるのを微かに期待する。しかし、そんなことは夢のまた夢の話だった。 「と、友達にも僕もそっちなんじゃないかって疑われたんです。椿先輩にまで誤解されてしまったらどうしてくれるんですかっ」 顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべながらも訴えてくる。双眸で兼を見るのが苦しいほどに胸が締め付けられた。

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