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記憶に新しい、兼との出来事を思い出しては居た堪れなくなり、右手で頭を掻きまわす。 そういえば、振られてから一度も他人の温もりに縋ることはしていなかった。丁度、関係を結んでいた相手は伴侶に見つかりそうになったとかで切られたとこだったし、休み前までは吉岡のおかげで気を逸らすことが出来ていた。 けれど、長期の休みに入ってしまった今、一人になって考えるのはあの日の兼とのやりとりばかりで、優作は何処にも晴らすことのできない気持ちに悶々としていた。 忙しい楓に相手にしてもらえず、お酒を片手に寂しさは募るばかり。適当な相手を探して一時の寂しさを埋めることを考えたが、見た感じ楓の常連ばかりで良さそうな奴がいない。 唯一、L字カウンターの席の角にお一人様で来ている男がいたが、優作の好みではない。狐のように吊り上がった細い目の形をした男。スーツを着ていることから会社員なのだろう。 ふと、視線が合った瞬間に目礼をされて慌てて視線を逸らす。雰囲気からして同類のような気がするが、ロックオンされてしまっただろうか。好みではない男に言い寄られたところで、乗り気にはならない。 ヤる相手の顔くらいは選びたいのが正直な所だった。 「君、ひとりでしょ。良かったら僕と一緒にどう?」  一切男の方を見ずに、俯いてやり過ごそうとしていたが、先ほどの男が近づいてきては、話し掛けられてしまった。 「あー……。今日はもう帰ろうと思ってたんで、結構です」  素っ気なく返答し、その場から去ろうと腰を浮かせたところで、男に肩を押されて、座るように促される。すると男は、優作に有無を訊かずに隣に腰かけてきた。 「冷たいなー……。なんだか君とは気が合いそうな気がしてね。君ってこっち側だよね?それとも両方いける人?」  既に空になっていた優作のグラスに、自分が楓の目を盗んで勝手に店から出して呑んでいたボトルのウイスキーが男の手によって注がれる。

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