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 見えるとは言え、首元の後ろの方だし、髪の毛が長めの優作では、一目見ただけじゃ気づかないと思っていたが……。 やはり吉岡に見つかってしまうのは複雑な気持ちになる。 「楓さんがよく怒っているから。優ちゃんの男遊びには呆れるって、あの子の為にもやめてほしいって」 「うざっ。と言うか、なんでお前がそんなこと知ってんの?」  吉岡と楓が会ったのは、仲直りしたあの日の一度だけのはずなのに、なぜ楓が呆れていることを知っているのか。  そんな疑問は、すぐさま彼の鞄のポケットから名刺が出てきたことによって解決された。『スナック 楓 ママ 桜田楓』と桃色で華やかなその名刺には、店の電話番号と、しっかり楓自身の連絡先が書かれていた。 「はぁ?お前、いつの間に楓と仲良くなってんだよ」 「店出る前に名刺渡されたから。楓さんいい人だったし」  今まで親が楓だと知った途端に離れていく奴らばかりだった。自分のモノサシでしか判断ができない幼少期なんて特にその傾向が強くて、いつも仲間外れにされてきた。  だけど、吉岡は違う。優作が話し掛けたときから、ゲイだと知ろうとも男遊びをしていると知ろうとも、彼は変わらない。   それに唯一の尊敬している楓のことを褒められるのは素直に嬉しいし、吉岡なら尚更。楓も吉岡のことを気に入っていたし、二人が仲良くなるのは喜ばしいことだった。  その反面で、自分が聞くことのできなかった吉岡の連絡先を、楓は意図も容易く聞き出して、交流を持っていることが少し羨ましくもあり、すんなりいかない自分に歯痒くなる。 「あいつ、一志って呼んだらキレるから」 「ああー……。それって楓さんの本名?」 「うん」 「呼ばないよ。あんな綺麗な人」  楓が聞いたら泣いて喜ぶだろう吉岡の優しい発言。そんな彼が何故、楓のことを態と本名で呼ぶような性悪男の自分のことが好きなのか……。 「優って桜田家の顔なんだね。楓さんにもだけど、お母さんにも似ている」  急にスマホを眺め始めたので、楓からの連絡でも来ていたのかと思っていたが、満面の笑みでスマホ画面を見せてきては、その写真を見てドキリとした。 「お母さんとの写真。優、お母さんにそっくりじゃん。それ以前に優のちっちゃい頃、可愛い」  笑顔の楓の隣で四歳くらいの自分が母親の腕に抱かれながら映っている写真。 照れているのか、母親の首元にしがみついて、顔半分だけ此方へ向けている、純粋な頃の自分。写真の流出原因が楓だということは、考えずとも分かる。 奴は何かとお喋りだし、二人が交流した今、お気に入りの吉岡には何でもかんでも話すと予想はついていた。  楓と繋がることで、恥ずかしい過去が吉岡に筒抜けになってしまうと思うと、やはりこの二人は引き合わせるべきではなかったかと後悔した。  そんな辱めを受けている優作の傍らで、吉岡はニヤニヤと熱心にスマホの写真を眺めている。 決して茶化しているわけではない、慈しむような表情を優作は見逃さなかった。 今、吉岡は幼い優作を見てどう思っているのだろうか。   いちいち気にしなければいいものを、余計な先入観が邪魔をする。密かに向けられている好意に戸惑いながらも、優作には、吉岡の感情に目を瞑ることしかできなかった。

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