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ホームルーム後の全校集会で、隣の座席にいた男の正体を全校生徒の前で紹介された。三年A組の担任が明日から一ヶ月半の手術入院のために休暇をとるらしい。
水澤俊彦 という男は、その代理で赴任してきた男だった。
あの時、自分は私服だったし、優作が学生であることは、常連以外の客は知らないはずだ。
叔父の店とは言え、自ら公言して影響を与えるのは楓だと分かっているからこそ、年齢は伏せていた。
これを偶然と言っていいものなのか、不運と言っていいものなのか、一夜を共にした相手が学校の教師だったなんて冗談でも笑えない。
昼休みの教室。
持参の弁当を食べる吉岡の横で無心でコンビニのパンを齧る。水澤は数学の教師なのか、一時限目は担任の授業で、ずっと優作の隣の座席で見学していた。
いつもなら居眠りしているはずの授業で起きていたのは、左隣からくる視線に居心地の悪さがあったからだ。
また顔を伏せたあかつきには、何されるか分かったものじゃない。
初対面で行為中に痕をつけてくるところとか、担任がいる最中で悪戯を仕掛けてきたこととか、ひとりの成人男性として常識的ではないと認識しているだけに、優作の中で警戒心があった。
「水澤俊彦、二十八歳独身。彼女なし、恋人絶賛募集中。好みのタイプ、綺麗な子だって」
今まさに考えていた奴の名前が、右隣から聞こえてきて思わず振り向いた。
「女子が数学の授業終わって一斉に寄って集って騒いでた」
「ああ……」
自分は過剰に反応し過ぎただろうか、吉岡が振り向いた優作にギョっとした表情を見せたので、正面に向き直り、耳元の髪をかき上げて誤魔化す。
楓の店に居る時に『綺麗な子を抱くのが好き』だと言っていた。
女子たちの水澤に対しての興味本位の質問に露骨な返答すぎて、全身に寒気を覚える。
「ねえ、優。ひとつ聞いてもいい?」
この話の流れからもしかして、朝の水澤とのやりとりを吉岡に見られてしまったのではないかと身構える。
吉岡は隣の席だし、そのあとすぐに視線が合って「どうした?」と問われたことから、一連の出来事を目にしていてもおかしくなかった。
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