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12-3
「朝のホームルームでさ、水澤先生に……」
「桜田くん、ちょっといいかな?」
吉岡に問われそうになったと同時に、座席と座席の間を割るようにして水澤が入ってきた。肩に置かれた手に身体がビクッと跳ねる。
気配なんて一切感じなかっただけに、それでこそ狐が化けて出てきたのではないかと心臓が止まりそうになった。
できれば、此奴と接触するのは避けたいところだったが、水澤が学校の教員である以上は、避けることはできないのは分かりきったこと。向こうだって例え偶然だったとしても、生徒と性行為をしていたなんて知られたら大問題なはずだ。だから必死に違いない。
呼び出されたってことは口留めでもされるんだろうか……。
「ああ、分かった」
いざとなったら言いふらせばいい。何も怖いことはない。優作は静かに頷くと座席を立ち上がった。
水澤は優作が頷いたことにより、目配せしてくると、先に教室を出て行った。優作も追うようにして、その場から離れようとしたとき、吉岡に手首を掴まれる。
「優、大丈夫?」
眉尻を下げて心配したように問うてくる。
「別に、ただ呼ばれただけだし。ちょっと行ってくる」
何処か腑に落ちないような表情をされたが、優作はそれを吹っ切るように教室を出た。
生徒の名前すら覚えていないはずの赴任してきたばかりの教師に呼ばれるなんて、普段じゃあり得ないこと。吉岡が不審に思うのも無理はなかった。
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