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階段前で待っていた水澤と合流し、最上階である四階まで到着すると、水澤は【数学準備室】と看板が下げられた教室の引き戸を開けて、中へと促してきた。  優作は目礼をしながら中へ入ると、真っ先に小難しそうな本が並べられた本棚が目に入ってくる。   数字だとか公理と証明だとか読むのも疲れそうな書物ばかり。折り畳み式の繋げられた長テーブルには生徒の宿題だろうか、プリントの山。 勉強が苦手という訳ではないし、むしろ成績は優秀な方だ。だけど、好き好んでいるわけでもないので自分にとっては息が詰まる空間だった。  やっぱり帰ろうか……。なんて思っては踵を返した矢先に、扉が勢いよく閉められて、内鍵が締められた音がした。 水澤が両腕を組んで扉に凭れかかった姿を見て、身の危険を感じた優作は苦笑いをする。 「そんな身構えないでよ、取って食うわけじゃないし。少し、さくらだ……。優作と話がしたいんだ」  警戒心を抱いている優作を察してか、口元を緩ませながら不敵な笑みを浮かべる。 水澤は扉から離れると、室内の中央にあるテーブルの椅子に腰を下ろした。すぐ隣のパイプ椅子を引かれて、隣に座るように促されるが、長居をする気はない優作は首を左右に振る。 「まさかこんな所で会うとはね?しかも、赴任先の生徒だったなんて。てっきり僕は君が|二十歳《はたち》を超えているものだと思っていたよ」  両手指と、右足を組んで目を細めて笑う。ただでさえ細い瞼が線を引いたように弧を描いた。 「それで、なんですか。口留めなら合意だったんで訴える気はないです。あの日限りのことだと割り切っていることなので」  一度肌を触れ合わせたからといって執着したりはしない。校内に入ってしまえば、教師と生徒の秩序は守られる。 相手は大人だし、教師の立場上もあるからこの話は一件落着するかと思っていた。 「あの日限りって冷たいなー……。僕は君のことを恋人にしたいなーって思ったから番号置いといたんだけど?」  水澤の言葉により、そんな優作の考えは一瞬にして崩されてしまった。現状を知っても尚、交際を求めてくる男に驚いたが、この界隈は割り切っている者が大半での中で、稀に身体の相性がいいからと執着してくるものもいる。そういった場合はバッサリ切り捨ててやるのが今までの得策だった。 「その日に破ってホテルに捨てました。俺、恋人とかいらないんで。それに、あんたはタイプじゃないから」 「んー……。それは残念。でも僕は、こうやってまた会えたことは運命だと思っているんだけど?」 「はぁ?」 運命の人なんて、そんなものがあるものか。 仮に水澤がそうだとしても、優作からは願い下げだった。こういう運命だとか理由をつけて迫ってくるやつは、セフレだろうと恋人だろうと束縛してくるに違いない。

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