63 / 125

12-5

「君のこと調べさせてもらったけど、楓さんだっけ?あそこのママ、君の育ての親だったんだね。親の店とはいえ、未成年があそこに通って飲酒をしているのはまずいんじゃないかな?謹慎は免れないだろうね。ただでさえ、君は出席日数が足りてないのに。僕と付き合うなら見逃してあげるよ?」  職権を乱用した脅し文句であることは分かっている。自分が何の考えなしに楓の店に出入りしていたことは自分の落ち度ではあったが、それと水澤との交際には結びつかなかった。  留年なんかして楓の悲しむ顔は見たくないにしても、この男に全て丸め込まれるのは、野生の感で危険だと警鐘が鳴っている。 「だからってあんたとは付き合う気はないです。それに、あんたこそ。俺が強姦されたって訴えたら謹慎どころか捕まるでしょ?」  相手に弱みを見せぬよう、鼻で笑ってそう返してやると、水澤は椅子から立ち上がって此方に詰め寄ってくる。 「優作はそんなことしないだろ?あんなに僕たち愛し合った仲じゃないか」  酔っぱらった勢いでことに及ぶところの何処が愛し合ったと言えるのだろうか。予想を上回る程の勘違い野郎であることは確かで、どこまで愛に飢えているのだと罵りたくなる。 「馬鹿馬鹿しい。頭に虫でも湧いてんじゃねーの」  ボソリと零れた本音が水澤の沸点に触れてしまったのか、弧を描いていた目が吊り上がり、人でも食らいそうな形相に変わる。 その瞬間に水澤の目の前にあったパイプ椅子が蹴り上げられては大きな音を立てて横転する。 優作は衝撃に驚いて身体がビクリと跳ね、慌てて扉の方へ逃げ込んだ。   締められた鍵を回したところで、無理やり肩を掴まれて、背中を扉に押さえつけられてしまう。 「いいから黙って僕の恋人になろうか?」 「嫌だ」  至近距離まで近づく水澤の顔。冷たい指先で頬を撫でられて、蛇の舌先で舐められたような気色悪さを感じる。 「触るなよ」  悪寒から、水澤の手を払い除けるとすぐに両手が伸びてくる。手指が首元に絡みつくと指圧をかけてきた。 「優作に拒否権はないはずだよ」 「うっ……。……っみ、わかんねっ」 器官が圧迫されて上手く呼吸ができない。このまま自分は一晩関係を持った男に恨み殺されてしまうのだろうか。鍵は開いているから、扉を開けられれば逃げられる。

ともだちにシェアしよう!