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「っふ。吉岡君ってやけにつっかかってくるね。早々に僕は嫌われちゃったかな?」
「これが普通ですけど」
更に力が込められる吉岡の手から、彼の感情が今は穏やかではないことが伝わってくる。
「もしかして、吉岡君の恋人だったりした?じゃあ、僕と優作が関係を持っちゃったってことは……」
「吉岡は関係ないんで。先生、俺もう戻ります。続きはまた今度にしてください」
今度なんて作りたくないが、このまま居たら、水澤が余計なことも話しかねないし、例え偶然だったとしても一度は抱いた、抱かれた関係であることには変わりない。
唯でさえ吉岡に幻滅されるようなことばかりしておいて、これ以上の汚点となる素行は吉岡に聞かれたくなかった。
水澤に全てを話される前に、彼の右手首を掴んで一目散に駆け出す。
一刻も早く、吉岡と水澤を引き剥がすのに必死で背後から聞こえてくる吉岡の声なんて耳に入らなかった。
夢中で階段を下りていると、踊り場で「優ってば!」と大声で名前を呼ばれ、手を振り落とされたことにより、漸く我に返ったところで足を止める。
振り返ると吉岡は、眉を寄せたまま酷くご立腹のようだった。
「優、あいつと何かあんの?」
「別に……」
「じゃあ、なんでアイツは優だけ呼び出したんだよ。おかしいだろ。優が水澤に呼び出されることなんて朝の居眠りのことしか思い当たらないし、その時だってアイツに何かされていただろ」
粗方予想はできていたものの、水澤にちょっかいを出されたところを吉岡に見られてしまっていたことはショックだった。
もしかしたら吉岡に悪戯されていた時に漏らしてしまった声も聞かれていたかもしれない……。
あんな見苦しい声を……。
「何もされてない。それに吉岡には関係ない」
水澤との関係を認めてしまいたくない、知られたくない心から吉岡の前で嘘を吐く。
しかし、彼は納得していないのか、自身の首元を前後に摩っては、優作の首に目線を向けてきた。
「関係ないで済んだらいいけど、首のそれ、友達として見過ごせないんだけど。準備室の中で何があった?」
水澤の力は本気だったのではないかと思うほど強かった。跡がついても仕方がないことではあったが、これじゃあ言い逃れができない。優作は必死に吉岡への言い訳を考える。
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