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「これは……。首が痒かったから掻いていただけ。アイツには、ただ説教されただけだよ。それよりお前にしては珍しくあたりが強かったじゃん」  吉岡にこの件に関して詮索して欲しくなくて、意識を彼自身に向けさせると、彼は一瞬だけ寂しそうに目を伏せては、苦笑をみせた。 「だよなー……。俺も自分でビックリした。なんかさ、生理的に受け付けないって言うの?もしかして余計なお世話だったらごめん」  吉岡は明るい口調でも、優作が話題を逸らしたことに気づいているようだった。それどころか先手を打って申し訳なさそうに謝ってくる彼に負い目を感じる。 「いや……。助かった」 「優、なんかあったら言ってよ?俺のことは気にしなくていいからさ。優が困っていたら助けたいからさ。友達として……」 「うん……大丈夫」  吉岡の優しい言葉が胸に響いてくる。本当は大丈夫なんかじゃなかった。首を絞められたことによって、水澤に対する恐怖が植え付けられていた。 関係をもった奴と、トラブルが起きることは初めてじゃない。 今までは店の中で収まっていた話。その度に、楓に仲裁に入ってもらうことでどうにかなっていたが、今回のことは日常生活にも浸食してきていることだった。学校内で自分が頼れる者などいない。 水澤と対峙したときに、自分は上手く回避できる自信がなかった。  きっと吉岡に全部話せてしまえれば、彼は自分を助けてくれる。けれど、吉岡に迷惑をかけるのも自分の行動の浅はかさに呆れられるのも嫌だった。 教室まで戻ってきては、黒板側の出入り口から入るなり、吉岡は真っ先に廊下側の前方の二席に座る男二人組の元へ駆け寄っていってしまった。 「あ、飯田。何でいなくなったんだよ」 確か彼の友達の二列目に座る黒縁眼鏡が飯田で、その前の天然パーマの方が辻本だったはず。  吉岡は黒縁眼鏡の方に近づき、思い切り机を叩くと、何やら怒りを露わにしているようだった。 「俺は準備室に行くとは言ったけど、中に入るとは言ってない」  そんな吉岡の熱量に対して、冷静な飯田は彼に目もくれずにタブレットを眺めている。 「いやいや、飯田君。あそこまで行ったんなら中入ろうよ」 「行ったところで俺には関係ないしなあー……」 「冷たいよー。俺の友達はみんなの友達っていうじゃんかー……」 「もしかして、よっしー。あのまま突撃したの?」 悪戯な笑みを浮かべる飯田と、ゲラゲラと面白がったように笑う辻本。それを哀愁漂う表情で彼らの肩をツンツンとつつきながら、いじけている吉岡。  そんな吉岡の姿が何だか楽しそうで、胸にチクリと針が刺さったような痛みを感じた。胸の真ん中に手を当てては、ワイシャツを強く握ると、黙ってその場から離れては自席に着く。 吉岡にはちゃんと仲間がいる。 俺といる時よりも数倍楽しそうな友達が……。  優作は机に両肘をついて両手で額を抑えては、深く溜息を吐いた。何だかモヤモヤして凄く嫌な気分だ……。

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