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「あら、水澤さんだったかしら?確か、二回目よね?優ちゃんのお知り合いだったの?どうぞ、お座りになって?」  優作は男から目線を外し、正面に向き直り俯くが、楓に促されたことによって近づいてくる足音に緊張が増す。 「そうなんです。偶然にも優作くん、僕の赴任先の高校の生徒だったんですよ」 「あら、そうなの?水澤さんが先生だって話は聞いてはいたけど、まさか優ちゃんの担任の先生だったなんて。優ちゃんね、こう見えても私の息子なのよ」 「存じています。楓さんが優作くんをお一人で育てられたんですよね」 気配が近づくと、なんの断わりもなく優作の隣に水澤が座ってきた。楓と話している筈なのに此方を向いて微笑んでくる男に不快感を抱きながらも、優作は目礼をすると視線はすぐさま前方に集中させる。 こんな所にまで来て何しにきたんだろうか……。  また後で、なんて本人を一時的に巻くための言葉を本気にされたのだろうか……。今日一日の行動から、水澤ならあり得なくもない話だった。 「そうなのよ。これもなにかの縁かしらね?」 「そうですね、僕と優作くんは会うべくして出会ったのかもね」 いちいち水澤の言葉が引っ掛かる。楓は水澤との間にあったことなど知らないから仕方がないにしても、楽しそうに談笑を始めているのが複雑だった。 「じゃあ、こんなところに優ちゃんが居たら大変よね」 「本来であれば容認できないところですが、僕も一度訪問したお店ですし、見逃してあげます。それにしても楓さん、お綺麗ですね。優作くんは楓さん似かな?」 「いやだ、綺麗だなんて。若い先生に言われたら嬉しいじゃない。ねぇ、優ちゃん?」  水澤の丁寧な口調と話術にコロッと騙され舞い上がる楓。水澤は店の客でもあるし、こんな楽しそうな楓を見て「こいつは俺を絞め殺そうとした」なんて言える訳がない。優作は小さく息を吐き、黙って椅子から立ち上がった。 「ちょっと、優ちゃんどうしたの?」 「俺、帰るわ」 「あら、せっかく先生が来てくれているのにまだ居たらいいじゃない」 「そんなやつどうでもいいし」  此奴と同じ空間にいたら何をされるか分かったもんじゃない。楓に話しすらできなかった以上、この件に関しては自分で処理をしなければならないような気がした。  

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