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帰宅ラッシュなのか、人通りの多い駅前。すれ違う人の波を掻き分けて改札口へ向かうと、尻ポケットを触った途端にその場に立ち止まった。
優作の後に続いて改札を通ろうとしていた男に肩を押され、舌打ちされながらも、すぐさま横に逸れる。
スマホがない……。
いつもは、ズボンのポケットに入れて肌身離さず持っている筈のモノがない。
何処かに置き忘れてきただろうかと考えているうちに、楓の店でテーブルに置いたきりだったことを思い出した。
水澤のいる空間から早く離れたかったのが先行して、すっかり持って帰ってくるのを忘れてしまったのだろう。
アイツのいる店になんか戻りたくなかったが、戻らないと自宅には帰れない。
優作は本日何度目かも分からない、溜息を吐くと踵を返した。
「へえー、優作って友達少ないんだね。登録が楓さんしかいなくて驚いたよ」
振り返った先にいたのは、先ほど此奴が嫌で店から出たはずの男が立っていた。スマホを片手にそう呟く男の手元にあるものは、紛れもなく優作のものだった。
プライバシーなど関係なしに、所有物かのように弄っている水澤に慌てて駆け寄っては、スマホに向かって手を伸ばしたが簡単に躱されてしまう。別に見られて困るようなものはないが、個人情報を他人に見られるのは気分が良くない。
「彼氏としては安心かな。僕、こう見えて束縛激しいからさ、他の男と繋がっているだけでも気が気じゃないんだよね」
「俺は、あんたの恋人になった覚えはないんだけど」
勝手に恋人になった前提で話を進めているが、一度たりとも水澤を受け入れてなどいない。
水澤は鼻で笑い、此方へ近づいてくると右手を掴んできては持っていたスマホを渡してきた。
一瞬でも絡んでくる手を不快に思ったが、すんなり返してくれたことに安堵する。
「優作には拒否権はないって言ったはずだよ?けど、君にはちょっと悪い虫がついているみたいだね。吉岡君だっけ?」
「吉岡がなに?」
急に吉岡の名前が出てきて、ドキリとした。
「君の友達みたいだね。クラスの女の子たちが教えてくれたよ。優作はその吉岡って男と一緒に居ることが多いって。昼のあの憎たらしい男だろ?」
昼の一件で水澤が吉岡のことを見過ごすことはないと思ってはいたが、こんなにも早くクラスの女子達に聞き込みをするまで執着してくるとは思わなかった。
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