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お前には関係ないから……
翌朝。あまり気が進まなかったが、重たい足取りで学校へと向かった。
勿論始業には間に合わなかったのでホームルームと一時限目の間の休み時間に教室へと潜り込み、座席に座る。
一時限目はロングホームルームだったのか、始業のチャイムが鳴るなり、男女二人の学級委員が黒板前に出てきては、女の方が何やら板書を始めていた。
一方で、水澤は教室前方の隅っこで椅子に座り様子を眺めている。
男の方が「では、本年度の文化祭のクラスの出し物について決めたいと思います。何か案はありますか?」と話し始めると、クラスの奴らが一斉に騒ぎ始めた。夏休み明け早々、文化祭の準備なんて忙しないが、優作には全くもって関係のない話。
優作はお化け屋敷や喫茶店など様々に出てきた案をひたすら黒板に板書していく姿を、ぼんやりと眺めていた。
「優、ゆーう?」
隣から名前を呼ばれて振り向くと、吉岡が右手を口元に添えながら小声で話し掛けてきていた。
「なに?」
「何って……。今、自分には全く関係ないと思って聞いていたでしょ。ちゃんと出なよ?」
「出たって、つまらないだけだし」
ふと、視線を感じて教室前方の方を見ると、水澤が此方へ視線を送ってきていた。目が合った瞬間に笑いかけてきたが、優作はすぐさま逸らす。逸らしてもなお、水澤の視線を意識するあまり、落ち着いて吉岡と会話をする気にはなれなかった。
水澤には全て見透かされてしまっていた。
吉岡が自分のことを好きなことも、表面上は友達としてやっていても、自分の中で複雑の位置であることも。
吉岡が快諾した関係だったとしても、優作に好意を寄せていることには違いないし、時々ボロが出てしまう時だってある。
今週中に縁を切ることを要求された以上、下手に吉岡と仲睦まじく話をして、水澤を刺激するのは良くない気がした。
「そんなこと言わないで最後くらい出ようよ」
そんな警戒心を持つ傍らで乗り気にならない優作の返答を聞いた吉岡が一瞬だけ寂しそうな表情をしたのを見て、最後なのだから出席してもいいかもなんて思えてしまう。
「気が向いたら……」
頑なに断るのも可哀そうな気がして、曖昧に濁した返事をした。
これ以上は駄目だと頭では分かっていても吉岡と話すことを止められない。
昨日の今日でずっと張り詰めていた優作にとって、吉岡と話すことが落ち着ける時間になっていた。
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