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「相変わらず吉岡君は僕にあたりが強いね。まるでハムスターに喧嘩を吹っ掛けられているみたいだ」  水澤なりの皮肉だろう、吉岡を見下すように鼻で笑う。  一方の吉岡は一瞬だけ大きく顔を俯けて、拳を強く握る仕草を見せていることから相当腹が立っているのだろう。 バッっと顔を上げると、怒りを含んだ笑みを水澤に向けていた。 「それで先生、何が言いたいんですか?俺らがそんなに、うるさかったんなら以後気を付けるんで。すみませんでした」  吉岡の感情の込められていない謝罪は、とっとと水澤を追っ払いたかったからだろう。 「俺らが、じゃなくて君が、だけどね。ハムスターなんて可愛いもんじゃない。綺麗な花には虫が寄り付くって言うだろ?僕は虫よけに来たんだよ」 「おい」  そんな吉岡の牽制など水澤には効いていないのか、おとなげなく吉岡を挑発する発言に一角が凍てつく。 「先生、虫って俺の事っすか?生徒を虫呼ばわりする先生ってどうなんですかね?それとも、今流行りのパワハラだったりします?」 「おい、吉岡。やめろよ」  先ほどの発言も我慢の限界であったはずの吉岡の堪忍袋の緒が切れてしまったのか、まんまと水澤の挑発に乗せられてしまう。 あくまでここは教室で、こんなところで揉められてクラスの注目の的になるのは御免だ。争っている理由が自分にあるなんて尚更の話。 「君もいい友達のフリをして、あわよくば僕の優作を奪う気でいるんだろ?」 「はぁ?どういう意味だよ」 「おい、やめろって」 ヒートアップしていく水澤と吉岡に冷や汗をかく。 止めようと水澤の腕を掴んだが、お互いに全く聞く耳を持たないのか、優作の声が届いてない。 次第に近くの座席の生徒が異様な雰囲気を醸し出している二人に気づいたのか、此方を凝視し始めている者もいた。 「だから、君は優作のことが……」 「吉岡、いい加減にしろよ!」 これ以上は周りの迷惑になりかねない。そう思った優作は大声で二人の仲裁に入ると、それなりに騒がしかった教室が一瞬にして静かになる。 吉岡は優作の声で我に返ったのか、決まりの悪そうな表情を浮かべると、「ごめん、優……」と小さく呟いた。 「なになに、吉岡と水澤先生なんかあったの?」と付近の生徒だけではなく、クラス中がどよめきだす。 「はい。みんな止まらない。何でもないから続けてー」  そんな不穏な空気を持ち直したのは、水澤だった。 両手をパンパンと叩き、教室前方に戻る水澤が仕切り直したことで、再開される話し合い。 一瞬の静寂が嘘のように騒がしさを取り戻す。 一方で、隣の吉岡は申し訳なさそうに顔を俯けて意気消沈としていた。

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