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休み明けの登校初日は、吉岡に会いたくて早起きまでして乗ったバス。今は朝のラッシュが過ぎたせいか客は疎らだし、乗客の大半はお年寄りだった。  正直、今は吉岡と顔を合わせたくない。否、合わせるべきじゃない。心無い言葉を言ってしまったし、何より水澤の件に関して踏み込まれたくなかった。 水澤の言いなりになった訳じゃないけど、いちいち吉岡の好意を気にしてしまう自分に嫌悪感を抱くのも事実だし、そのくせ他の連中と楽しそうにしている吉岡を見ると、モヤモヤして不快に思う自分も嫌だった。 それなら一層離れてしまったほうが、吉岡が水澤からも避けられるし、自分も割り切れてしまえば吉岡に対する独占欲も無くなる気がした。 優作が吉岡と友達の関係を続けなければすべてが丸く収まる。 学校へ着き、下駄箱で上履きに履き替えている途中でチャイムが鳴る。 玄関先の真正面にある古ぼけた時計を見遣ると、時刻は正午になったところだった。教室に行けば確実に吉岡はいる。 昼休みだから例の二人と一緒かもしれないが、同じ空間にいるのは気まずい。  優作は上階へと繋がる階段を上り、教室に向かうのを止めると、上ってすぐの非常階段へと向かった。 重たい鉄扉をゆっくりと開けた先には、吉岡の次に会いたくない水澤が踊り場の塀に背中をあずけて立っていた。  校内禁煙のはずなのに教師という立場があるにも関わらず、堂々と煙草をふかしている男。優作を見るなり、虚ろな瞳をしていた瞼が細く笑った。 「なんか優作が此処に来る気がしていたんだよね。午前中の授業さぼって昼から登校?どこで何してたのかな?」  水澤に干渉される筋合いはない。優作は水澤の問いを無視して、鉄扉を開けて踵を返そうと校内へ一歩踏み出した瞬間、扉にカンッと何かが当たった音がして足を止めた。

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