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音を立てて地面に落ちていった物体を目で追うように足元を見ると、黒色の四角い小さい箱のようなものが落ちていた。
上部に裂け目があることと、水澤が煙草を咥えていることから、多分ジッポだろう。
「優作、それ取ってくれる?」
落ちているものを拾わずしてその場から去る選択もあったが、この狭い学校で水澤と鉢合う場面は避けられない。
首を絞められて逆上されたこともある故に、反発したら水澤の怒りを買いそうな気がした。
此処は大人しく返したらすぐに立ち去ろう……。
優作は足元に落ちているジッポを拾いあげると水澤の元へと近づいて、物を差し出した。
「それにしても優作は冷たいなー。折角二人きりになれるんだから逃げないでよ」
「誰があんたと二人きりになって喜ぶんだよ」
ジッポを渡しながら皮肉の一言でも言ってやらないと奴を調子に乗らせる。さっさと手渡して「じゃあ」とその場から立ち去ろうとしたとき、ジッポを渡した名残の手首を掴まれ、引き寄せられてしまった。
危機感を覚えたころには手遅れで、水澤の唇が乱暴に重なってくる。
先ほどまで煙草を咥えていたせいか、口腔内に苦みが広がって、気色悪さを感じた。喉の奥からこみ上げる噎せに、奴の肩を思い切り強く押し離すと、離れ際に唇に歯先を立てられた。
僅かに感じる唇のピリつく痛み。舌先で唇を舐めると、仄かに鉄の味がする。
「げほげほっ……。何すんだよ、気持ち悪いっ」
「僕、冷たくされるのは嫌いじゃないけど、お預けばかりされる程、気が長くないんだよね」
男は腕を組み、優作の唇の味を確かめるように、親指に唇を当てて舌なめずりをする姿が、妖狐のような不気味さで身体が震えた。
「それにしても、昨日の吉岡君は面白かったね」
再び塀に凭れて、胸ポケットに先ほどのジッポを仕舞っては天を仰いで厭味ったらしく笑う。
「僕が挑発したら真っ赤な顔して、あれはもう優作のこと好きだって言っているようなもんでしょ。あの後、襲われなかった?」
「吉岡はそんなことをするような奴じゃない」
「どうかな?逆上して飛び掛かってきそうだったけど?」
水澤の言葉ひとつひとつに腸が煮えくり返りそうになる。自分ならいくら侮辱されようが構わないが吉岡を嘲笑って悪者扱いしてくるのはいただけない。
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