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「逆上して人の首を絞めてくるのはあんただろ」 「人聞き悪いなー。逆上じゃなくて躾だよ。優作のため」 「俺はそんなのは好みじゃない」 「好みも何も僕は心配なんだよ。あーやって優作の周りをチョロチョロしている虫に横取れるんじゃないかって気が気じゃないんだよ。それにあんなに敵視されたらさすがに僕も見逃すなんてできない」  水澤なんて受け入れたくないけど、反発すればするほど事態は悪化していく。ましてや吉岡が水澤の喧嘩を買ってしまった以上、今度二人が対峙することになったら只の挑発だけじゃ済まされない気がした。 「ねえ、優作。どうしたら吉岡君は君のことを諦めてくれると思う?」  塀に右肘をつけて、優作の顔を覗き込むように問うてくる。吉岡を揺するような真似をしておいて、彼に諦めさせようとしているなんて奴の行動は矛盾している。 けれど、吉岡に向かって水澤が手を出すようなことだけは避けたい……。 此奴の目的は自分だし、吉岡が俺の事を好きだったとしても俺さえ水澤の手の内に収まれば、水澤も吉岡に目を向けなくなるのではないだろうか。 ならば一層のこと郷に入っては郷に従え。 自分が我慢して水澤の恋人になる選択をすれば……。 「俺が……。俺があんたのもんになったらあいつは諦めると思う……。そしたら、あんたはあいつに近づかない?」 優作は強く拳を握ると俯いて震える声を振り絞る。 束縛なんて嫌いだし、此奴の言いなりになるなんて死んでも嫌だけど、吉岡を此奴の手から守りたかった。 水澤の口元がニヤリと笑んでくると、優作に近づいてきては頬を右手で掬われる。見たくないのにかち合う視線。 「優作は賢いね。やっと僕のものになる決心ついたんだ」 吉岡が絡んでなければ適当に突き放していた。悔しいけどこんな奴と付き合いたくなんかない。だけど、これで吉岡に迷惑がかからないのなら身を投げ出してもいいと思えた。 どこか支配で塗れたその瞳。  水澤の手が頭に乗っかり、優しく撫でられることに寒気がした。 吉岡のいつも撫でてくる感触と全く違う手。 吉岡は荒々しくてもどこか温かみがあって心地が良かった。 水澤の冷たい手が自分の頭を掻き回す度に自分で選んだ道なのに、吉岡に助けを求めたくなってしまう。 この手じゃない、吉岡の暖かい手がいい。 こいつじゃない、吉岡の隣がいい。 好きでもないやつに触れられて、今まで自分がしてきたことに酷く恨んだ。 それは、自分が吉岡のことが好きだったなんて気づいてしまったからだ。

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