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恋しくて、助けてほしくて

今更気づいたところで、もう後戻りはできない。吉岡を避けるようになって数日が経った。 唯一、吉岡と近づけるのが授業中の隣の席くらい。 独りでいる時間なんてないほど、昼休みは水澤に呼び出され、数学準備室に向かう日々だった。  身体から始まった関係故に二人きりになると、水澤は手を出してきて事に及ぼうとする。 「学校だから」とか「付き合ったら段階を踏みたい」などと言い訳をして、なんとか貞操だけは必死に守っていたが、その時は躱すことができても時間の問題のような気がした。 少し前までは授業中でも時折、喋ることがあった吉岡との会話は全くない。吉岡も自分が意図的に避けている事に気づいているのか、話し掛けてこないのが少し寂しかった。 板書に集中する彼を眺めては、想いを募らせる。 駄目だと言われたものほど欲しくなるように、彼のペンを動かす手が恋しい。その手に触れたい……触られたい。 「そんなに隣が気になる?」  周りが見えぬほど吉岡に集中していると、背後から囁かれて我に返った。同時に、首元を指で撫でられて漏れそうな声を押し殺す。  咄嗟に辺りを見渡したが、前後左右に人の気配はなかった。 しかし、犯人の目星はついている。 何食わぬ顔で、ひとりひとり生徒の問題を解くノートを覗きながら窓際の通路を通っていく水澤で間違いなかった。 教壇へと戻り際に鋭く睨まれ背筋が凍る。  よりにもよって水澤の授業で気を抜いてしまった。それほどまでに、吉岡を恋しく思ってしまう自分は末期だ。  後で水澤に酷く問い詰められる予感しかしない。自分が犠牲 になるくらいならまだいいが、再び吉岡に目をつけ始めたら、 自分の選択が無駄になる。  吉岡を恋しいだなんて思っちゃいけない……。  頭で分かっていても、視線は嘘をつけないのか、吉岡と話したいと言わんばかりに彼のことを目で追うことをやめられない。  ふと、吉岡と目が合ってしまい、すぐさま俯く。 好きだと自覚すればするほど吉岡に助けを求めたい自分と、関わってはいけない自分と格闘する。 水澤がいるのは担任の代理期間中だけだと思いたくても、出口の見えない毎日に、助けを乞うことのできない現状に、鬱屈としていた。

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