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「いい加減にしてくれるかな?」 「いてっ」 降ってきた声と共に吉岡の表情が歪む。水澤が吉岡の手首を捻るように力を入れて握ってきていた。 「優作と僕が付き合っていたら何か問題でもあるのかな?」  望んでいない状況が起こってしまった……。また、この間のように、成り兼ねない状況を作ってしまった。 「ありも大ありでしょ。あんた教師だよね?」 「だから?僕たちは合意の上での関係だから君に邪魔をされる筋合いはないと思うけど?」 「俺にはそうは見えないんですけど」  吉岡は顔を歪めながらも水澤への反抗を止めない。  もうやめてくれ……。 吉岡も俺の事を気にしてこんな奴に構わないでくれと思うのに言葉が上手く出てこない。 「ホント君はしつこいな。そのストーカーみたいに優作のこと追いかけ回すの、やめてもらえないかな?」 「追いかけ回してんのはどっちだよ。他人のスマホ盗み見る奴の方が……いててててて」  吉岡の顔が更に歪められた。水澤はまるで鬼のように目を吊り上げて狂気が増していく。 次第に口答えする吉岡を鬱陶しく思ったのか、水澤の手が彼の首元へと伸びていくのを見逃さなかった。 優作は吉岡に伸びていく手を払うと、水澤の腕を引っ張ってはその場から離れようと試みる。 背後で「優!」と叫ぶ吉岡の声など無視をして、無我夢中で彼から水澤を引き剥がすように上層階へと上がっては、人気の少ない数学準備室前まで向かった。 数学準備室の前まで来て、足を止める。 流石に今の状況で水澤と中に入るのは危険すぎる。 吉岡と引き剥がしても水澤の表情は、怒りを露わにしたままで、このまま二人きりの状況を作ってしまえば今度は自分が何をされるか分からない。 「吉岡には手を出さない約束だろ」 「黙っていたら手を出すつもりなんてなかったよ。でも向こうから君に近づいてきたんだ。五月蠅いから黙らせようと思って」 吉岡が自分に話しかけてくればこうなることは分かっていた。 分っていた上で吉岡に心無いことを言って距離を置いた自分でも、彼は呆れて見捨てることをしなかったのが嬉しくて、一瞬だけ彼に助けを求めようとしてしまった自分の甘さを悔いる。 「それと、今日の優作は僕の癇に障ったかな。授業中、吉岡君を必要以上に見てたよね?」 「別に……」  案の定、授業中に吉岡のことを見ていたことに気づかれてしまっていた。正直に認めてしまえば地獄行き。  「……っておい」 優作は言葉を濁してやり過ごそうと試みたが、腕を掴まれて準備室の中に追いやられてしまった。 危機感を覚えた頃には出入口は水澤で塞がれ、掴まれた腕を抑えられながら強い力で室内の奥へと誘導されると、痛みが生じる程の衝撃で身体ごと本棚に押さえつけられてしまった。 水澤は机のペン立てを倒しながら手探りで何かを手に取ったかと思えば、目の前にハサミを突き出してきて言葉を失う。 「吉岡君に特別な感情なんて抱かれたら困るなー。俺のモノだって自覚してもらなきゃ」   刃物を突き付けられて、今度こそ此奴に殺される。 これはもう本末転倒なのではないだろうか。 自分が自棄を起こしてこんな男と繋がったりしなければよかっただけの話。 恐怖で震えて体を動かすこともままならず、振り上げられた反動で瞼を閉じると耳の真横でジョキンと何かが切り落とされる音がした。

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