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吉岡は見かけによらず武闘派で、優作自身も彼の拳をお腹で受け止めたことがあるが、それなりのパンチ力の持ち主であることは知っている。温厚な人物ほど怒らせると怖いとよく言うが正しくその通りだった……。 「ふざけるなっ」 「いいから、さっさと出てけ。優に金輪際近づくなっ。今後一歩でも近づいたら何が何でもあんたを教壇から追放してやる」 声を震えさせながら強がる水澤の声を上回る怒声で吉岡が牽制してくる。 水澤のネクタイを引っ掴み、輩同然のように脅している彼はまるで別人のようだ。 吉岡の威圧に負けた水澤はネクタイを吉岡の手から引き抜くと、舌打ちをして吉岡を押しのけるように教室を出て行った。 扉が閉まる音がして暫く、吉岡の双眸が水澤から此方へと移す気配を感じて、優作は咄嗟に目線を逸らした。 先程、彼を突き放しては、逃げるように水澤と雲隠れしただけに、気まずくて顔をまともに合わせることが出来ない。 そのくせ助けてほしいなんて思っては、結果的に吉岡の行動によって窮地を脱することが出来た。 あんなもみ合いまでさせて、迷惑被るような奴、百年の恋も冷めるレベルだよな……。 吉岡に合わせる顔がなくて、スマホを手にしながら膝を立てると、体育座りで顔を伏せた。 吉岡にだけは嫌われて見放されたくない……。 それは友達だからとかではなくて、確実に優作の中に芽生えた恋心からであった。 「優、大丈夫?」  柔らかな声が頭上から降りてきて、ゆっくりと顔をあげると、目の前で屈んだ吉岡がにこりと微笑んできていた。 優作の恐れていた表情ではなくて、安堵したと同時に涙が溢れてくる。 凄く久しぶりの彼の笑顔は、優作の心を落ち着かせてくれた。 「吉岡、迷惑かけてごめん……」 「優、水澤が嫌だって、助けてほしかったならもっと早く言ってよ。あのまま俺が追いかけてなかったら大変なことになってたでしょ?」 「あいつがお前を目の敵にしてるから……。吉岡にだけは迷惑かけたくなくて……」 「迷惑も何も今更。優が困っていたら友達として助けるのは当たり前じゃん」  でも……。なんて言い訳をしたところで、きっと吉岡は、優作が突き放そうとしても僅かなSOSを見逃すことなく、懲りずに助けてくれるような気がした。

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