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「優さぁ……。俺の優への気持ち、気にしちゃうかもしれないけど、それ以前に友達なんだからもっと頼ってよ。俺が水澤に酷いことされるよりも優が苦しんでいるところを見ている方が、俺は耐えられない」
吉岡は、優作の切られた毛先に添えるようにして指先で触れてきた。不意の出来事に胸がドキッとする。
初めての感覚に戸惑っているうちに、彼が覆い被さってくると、頭を抱えるようにして、抱きすくめられた。
後頭部から伝わる体温は暖かくて優しい……。吉岡の心臓の鼓動が心地よくて、優作の涙で彼のワイシャツが濡れていった。
ここまで自分のことを想ってくれる奴なんていただろうか。どんな醜態を晒したとしても呆れず、嫌がらずに傍に居てくれて、味方になってくれる存在。
今までは浅い関係しか築けなかった。
こっちが本気で好意を抱いたとしても、ノンケには拒絶されて終わり。
だからと言って同じ性癖の大半は、一時の欲を満たすだけの遊びとしか見られない。だから今まで割り切ってきた。
けれど、吉岡となら本気で好き合う関係になってもいいと思えた。
この胸に抱かれるのであれば……。
吉岡の言葉を噛みしめながら、手で涙を拭うと、彼に肩を掴まれて身体が離された。
「俺を利用してよ……。でも、それじゃあ、重いか……」
顔を上げて、彼と視線を合わせる。
吉岡は赤面した顔を見せたかと思えば、途端に目を伏せた。
優作に向かって自虐的に笑ってみせたことで、吉岡が数日前に彼に投げかけた心無い言葉を気にしているのだと察する。
吉岡の気持ちが重いわけなんかない。
むしろ喜ばしいことで、今の俺なら吉岡の好意を受け止められる。受け止めて同等な気持ちで応えてあげることが出来る。
「吉岡、俺さ……。吉岡のこと……」
吉岡への今の自分の気持ちを決心して話そうと口を開いたとき、準備室内のスピーカーから下校のチャイムが流れてきた。
『最終下校時間です。生徒の皆様はすみやかに下校してください』と放送部からのアナウンスが聞こえてくる。
「優、帰ろうか」
「あぁ、うん」
あのまま何もなければ告白する気でいたのに、拍子抜けした。
だからと言ってこれ以上話を続行する空気にもなれずに言葉を呑みこむ。
そうしているうちに吉岡はその場から立ち上がると、準備室を出て行ってしまった。廊下をキョロキョロと見渡したところで「優、早くしないと生徒指導が五月蠅いから」と手招きをしてきたので、不完全燃焼の気持ちを抱えながらも、準備室を後にする。
今、伝えられなかったからと言ってすべてが終わった訳じゃない。
いつかこの想いを吉岡に伝えられる日がくるのであれば、吉岡と想い合える日はくるのだろうか……。
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