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吉岡の連絡先

水澤との一件があってから数日が経った。水澤は今まで執着してきていたのが嘘だったかのように大人しくなり、必要以上に付き纏って来なくなった。 理由は自身の名誉のためと、番犬のように吉岡が常に隣にいることからだろう。  準備室で撮っていた動画のことが気になり、吉岡に問いただしてみると「俺としては今すぐにでも校長に突き出したいところだけど、優に任せるよ」と判断を委ねられたので優作は、首を左右に振った。  あんなことをされたが、一時の感情に流されて抱かれた自分にも落ち度はある。勿論水澤のしたことは教師としては、あるまじき行為ではあるが、担任が帰ってくるまであと数週間も経てば、嫌でも奴は学校を去っていく。 吉岡に「その代わりに、俺のことアイツから守ってよ」と甘え半分でおねだりしてみると、赤面させながらも快く受けてくれた。   週が明けて最初の日。 優作は軽くなった髪型に緊張した面持ちで教室へと入った。 奴に髪を切られてから、自分でも毛先を揃える為に反対側を切り落としたが、あまりにも不格好だったので、心機一転も兼ねてこの休日に美容室で整えてもらった。 肩まであった黒くて長い髪を耳半分が出るくらいまで切った。今まで重ねてきた素行を清算する意味も込めた散髪。 これからはもう、遊びはしない……。 する気もない、吉岡だけ……。 楓の御用達の美容師曰く、今流行りの襟足を刈り上げたハンサムショートというらしいが、何度鏡を見ても慣れなかった。   無防備な首回りがスース―して落ち着かない。けれど、心もろとも軽くなった気がした。  胸をドキドキさせながら教室後方の入り口へ踏み出すと、真っ先に座席に座る吉岡と目が合う。 「ゆう⁉おはよう、どうしたの?」  あからさまに驚いて問うてくる吉岡に頬が緩みそうになるのをキュッと口元を結んで我慢し、平然を装って自席につく。吉岡は飛び出すくらい目玉をまんまるくして近寄ってきては、顔を覗き込んできた。 「ついでだから切った……」  不評であることを危惧して自信なさげに独りごちると、吉岡に犬の毛並みを撫でるかのようにワシャワシャと両手で頭を掻き回された。 折角、整えてきた髪を乱されて不機嫌になった優作は「なんだよ」と吉岡を睨みつける。 「だってさ、優が髪の毛短いのがすげえ新鮮で触りたくなった。つか、サラサラなんだもん」  目を細めて口角を上げて笑ってくる姿をみて、吉岡が心底から髪型を褒めてくれているのだと分かって嬉しくなったが、流石にここまで行動に示されるのは恥ずかしかった。自分が本当に犬か猫にでもなった気分になる。

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