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本当はお前のこと惚れ直して好きになったと打ち明けてしまいたかったが、吉岡の自分に対しての気持ちのすべてを知っているわけじゃない。 きっと向こうは振られている前提で接してきているから、そこからどう巻き返せばいいのか分からなかった。 「優、しーわ。冗談だからそんなに深刻な顔しないでよ。綺麗な顔が台無しだよ」  余程険しい表情で考え込んでしまっていたのか、吉岡に指摘をされて我に返ると、自分の指先で眉間の皺を伸ばした。 そんな優作を見てくすりと笑う吉岡に胸が鳴る。早くこの距離が埋められたらと思う。吉岡と気持ちを通わせられたらと思う。 作業に戻ってしまった吉岡の横顔をしばらく眺めては、やり場のない気持ちを抱えながら、自分も大人しく続きに取り掛かろうとハサミを持った。 すると、一人の女子が座席前を通りすぎていき、吉岡の席の前に立ち止まる。 「吉岡くん、順調?」 「うん、順調、順調。見てよ。かわいいでしょ?」 黒髪ショートボブヘアーで猫のような大きくはっきりとした瞳。美人というよりは愛らしさのある顔立ちの女。ブレザーの胸元の名札には國枝(くにえだ)と書かれていた。 その女に話し掛けられて、吉岡は縫っていた暖簾を掲げて女に見せびらかす。 吉岡がいつもの二人と仲いいことは知っていたが、女子に話し掛けられ、親しく会話している姿を見るのは初めてだった。なんだか胸がチリチリする。 滅多に登校していなかった優作にとって、突然現れてきた知らない顔。飯田ですら吉岡と話している姿を見るといい気はしないのに、嫌いな女子だと尚更だった。  それに吉岡は、椿にコロッと落とされるくらいだから女子に話し掛けられてでもしたら、優作へ向けていたはずの想いは空中分解されて新たな恋へと邁進していきそうで気が気じゃない。 だから、吉岡の気持ちが変わらないうちに自分の気持ちを伝えないと……。  そんな敵対心から、國枝のことを凝視していると本人と目が合ってしまい、慌てて視線を逸らした。  今、まさに敵意を剝き出しで見てしまっていたから勘付かれてしまっただろうか。俯いてやり過ごそうとしても、國枝の気配がこちらへと向かってくる。 「桜田くんも順調に進んでる?ありがとうね」 「あ……あぁ」 てっきり宣戦布告でもされるのかと思って身構えていたら、単純に話し掛けられただけで狼狽えた。   陽だまりのように微笑んでくる女からは敵意なんて一切感じない。

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