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伝わらない告白

日が暮れ始めた頃、文化祭の準備をキリのいいところで終え、解散を促す校内放送が流れる。    クラスの連中は一斉に片付けをしては、ぞろぞろと下校をし始めていた。 「優、これ持って。俺、自分で使ったやつ持つから」 手早く片付けて吉岡を待っていると、彼の持っていたミシンを手渡される。手に持たされたミシンの重量に思わず体が傾いた。 日頃運動なんてしてないし、握力だって健全な男子よりは低いはずだ。「吉岡くん、お願いね」と先ほど女子達に頼まれていたことから、自分に回ってきた理由は予想がついていたが、不服であった。 「おもっ。てか、なんでだよ」 「女子達の使った分も戻さなきゃいけないから」  自分で使った訳では無いのに、こんな重たいものを持たせる吉岡を睨みながらも彼の後へと続いて、家庭科準備室へと向かう。 「そんなの本人達に片付けさせればいいじゃん」 「良くない。お年寄りと女子には優しくしなきゃじゃん?」  優作の中に女子に優しくなんて概念がないだけに、彼の考えは理解しがたいことではあったが、どこまでもお人好しな吉岡らしい行動に納得した。   器用で、気が回って友達もいて……。  楓が吉岡を勧めてきた理由が分かった気がした。性格 も含めて、今まで交わってきた奴と比べ物にならないく らいの良い奴。 これだけ傍にいて、興味ないなどと眼中になかったことが勿体ないくらいだった。 「それ、女子嫌いの俺に言う?」 「まぁ、確かに。でも、今日話した國枝は話しやすかったっしょ?」  吉岡のことが好きなのではないかと敵視してしまった女。自分の醜い部分を思い出しては、急に羞恥心を覚えた。 「椿よりは……」  陽だまりのような笑顔で話し掛けてきた彼女は、吉岡の女バージョンとでも言ったらいいだろうか。 自己中心的で優作の外見だけ見て寄って集ってくる女どもとは、雰囲気が断然違った。 ふと、あの女と吉岡が付き合ったら……なんて想像しては、胸の内がムカムカとしてきたので考えるのを止めた。

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