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階段を下りて、予め職員室で借りた鍵を使い、家庭科準備室へ入る。窓際の棚に何台か並べられていたミシンの隣に、持ってきたミシンを置いた。
準備室を出ると、吉岡は廊下で大きく背伸びをしては、そのまま吸い込まれるように窓の外を眺め始めた。窓枠に両腕を置いて、大きく深呼吸をしている吉岡の隣にそっと並ぶ。
夏も終わり、校内周辺に聳え立つ銀杏の木の葉が黄色く色付いている景色は、なんだかノスタルジックな気持ちにさせる。
「それにしても優が手伝ってくれて助かってるよ。もう最後だから、優には折角の文化祭楽しんでほしいんだよね。学校がつまらなかった場所で終わってほしくないって言うの?」
もう最後と聞いて、この学校生活も終わりが近いことに気づかされた。九月も終盤で、文化祭が終われば三年生は一気に受験モードに変わる。そう考えると吉岡と毎日こうやって一緒に居られる日も、数えられる程なのだろう。
なかなか踏み出せないからと言って、もたもたしている場合じゃない。だけど、ちゃんと恋人がいたことない優作にとってどうすれば恋人同士になるのか分からなかった。キスや体を重ねることが全てではないと分かっているからこそ、距離の詰め方が分からない。
ふと、窓の外の木の下に視線を向けると、仲睦まじげに手を繋いで歩いている男女の制服カップルが通りすぎていくのが見えた。
まるで付き合っているかのように肩を抱かれた時、正直嬉しかった。同時に「優に悪い」なんて言われたことが寂しくも思えた。吉岡とあんな風になれたらと思うのに上手くいかない焦れったさ。
吉岡に触れたい。もっと近くにいたい。
「優、聞いてる?」
「ああ、うん」
文化祭の話をする吉岡の横でそんなことばかり考えていると、顔を覗き込むように問われて我に返る。直前の話など全く聞いていなかった優作は、反射的に空返事をして頷いてみせたが、それを見抜かれてしまったのか、彼はジト目で睨んできた。
心を詠まれてしまったのではないかと焦るほどの鋭い視線に息を呑む。
しかし、黙っている優作に諦めがついたのか「まあ、いいや」と呟くと窓際から離れて大きく欠伸をしだした。
「ふあぁ。なんか頑張ったら眠くなった。優、帰ろうか」
吉岡は先陣を切って、階段へ向かって歩みを進める。少し、くせ毛ぎみにうねった後頭部が愛らしくて、そんなところも好きだと思う。
自分が行動しなければ何も変わらない。吉岡に初めて話し掛けた時だって、単なる気まぐれだったとしても自身でも驚くほど、彼に話し掛けたいと思ったから行動に移した。当時の自分ができたのなら、今だってできるんじゃないだろうか。
優作は小走りで吉岡の背中を追いかると、勇気を出して彼の左手に自分の右手を伸ばした。
大丈夫……。吉岡なら受け入れてくれる。
そしたらこの想いを告げればいい。
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