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頭で軽く想像をしながら、手を繋ごうと試みたが、指先と指先が触れ合った瞬間に、彼の手がサッと避けられた気がした。 「優、なに?どうしたの?」  吉岡を見るといつにも増して険しい表情を浮かべている。急に手を繋ぐのは不快だったのだろうか。予想もしていなかった拒絶と、彼の面持ちで一抹の不安が過ぎる。眉を潜めてこちらを見てくる彼の考えていることが分からなくて、怖くて、優作は左手を右手で掴んで胸の前に持ってきては目を伏せた。 「どうしたって……。別に」  もしかしたら吉岡は、ひとつひとつ段階を踏んでいくタイプなのかもしれない。そう考えたら先ほど、避けられた手も納得がいく。あくまでもまだ友達同士だから、自分からちゃんと好意を示さなければならないのかもしれない。このまま誤魔化すことだって出来るが、そんなことを続けたところで彼との関係は変えられない。  もっと一歩先へ進みたい……。  優作は大きく息を吐くと顔を上げて、吉岡の方へ向き合った。 「吉岡……。お、俺が……。俺が、付き合ってって言ったらどうする?」   優作なりの精一杯の告白。自然と拳に力が入った。 「それ……。どういうこと?」 「だから……。俺が吉岡と友達じゃなくて。その……好きだから付き合ってほしいって言ったらお前はどうする?」  静まり返っている校舎が余計に緊張を煽る。吉岡の気持ちが変わっていなければ、上手くいくはず。俺も同じ気持ちだって、心が通じ合えるはず。 「それは本気?」 「うん」 吉岡の瞠目した瞳に期待を膨らませ、大きく頷いた。 しかし、優作が頷いた瞬間に吉岡の視線が逸らされ、 目を伏せられてしまった。 「優、そういう冗談は良くないよ。優は後輩くんに振られたり水澤のことがあったりで、寂しくて人肌恋しくなっているのかもしれないけど、だからって俺と付き合うのは違うと思う」  自分が望むような方向とは別の方向を向き始めている。確かに、今までの優作であれば自棄を起こして適当な相手と関係を結んでいた。 だけど吉岡だけは違う。触れるのも触れられるのも吉岡じゃなきゃ嫌だ。 「違う。冗談なんかじゃない。お前となら友達としてじゃなくて、恋人同士の関係でもいいって……」 「違わないよ。優を助けた時、確かに俺を利用していいとは言ったけど、そういう風に使ってほしくない。妥協して俺なんて言わないでよ。優にはちゃんと好きな人と結ばれてほしい。幸せになってよ。優に好きな人ができても友達は辞めないからさ」  全力で自棄を起こした発言ではないことを伝えようとしても、吉岡はそれを打ち砕いてくる。自分の気持ちを否定されているようで悲しくて、苦しい。 本当に好きなのは吉岡だ。結ばれたいと思っている相手は吉岡だ。何を言えば信じてもらえるだろう。  唇を強く噛んでいる吉岡を見つめながら必死に心の中で訴える。 「……だから違う、俺の好きな人は……」  次第に目頭が熱くなり、吉岡の手首を掴もうと手を伸ばしたところで、階段の方から誰かの足音が此方へと上がってくる気配がして手を止めた。

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