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しばらくして、その足音が近づいてくると、階段が行く先にある角から上下ジャージの生徒指導の教員が現れ、目が合った。生徒が残っていないか見回りにきたのだろう。向こうも人が居ないと思っていたのか、驚いた表情をすると、直ぐに「お前ら、いつまでいる。さっさと帰れ」と下校を促されてしまった。 生徒指導に注意されるよりも、吉岡に伝えきれなかったことへの喪失感の方が大きい。優作はその場で立ち尽くしていると、隣の吉岡がおどけたように「すみませーん。直ぐ帰りまーす」と笑顔で謝っては、教員を横切って先に階段を下りて行ってしまう。 残された優作も教員が咳払いをしたことで、漸く我に返ると一礼をしてその場を後にした。   帰り道、吉岡と並んで歩くことが嬉しいはずなのに、全く喜べなかった。吉岡のくだらない雑談を聞きても全て生返事で返してしまい、そうしているうちに吉岡自身も話し掛けてこなくなった。 彼との間の気まずさを引きずりながら、到着したバス車内へ乗り込むと、お互いに左右の窓際に座る。 いつもの日課が功を奏して、彼との間の空気に臆することはなくなったが、優作の中で生まれたモヤは消えないままだった。自分も吉岡が好きだと言ったら、簡単に恋人になれるものだと思っていた。 人の心なんてスグに変わってしまうものだと思っていたけど、吉岡の心も変わり始めているんじゃないだろうか……。  普段は最寄りまでスマホを弄っている吉岡も窓の外を眺めて物思いに更けていることから、何か思うことがあるのだろうと察することはできたが、彼の心までは詠めない。漠然とした不安で胸が押し潰されそうになる。  しばらくして、バスの停車ボタンが鳴り、吉岡が何時もと変わらず「優、また明日ね」と笑顔で手を振り降りていく。  優作は吉岡の降りていく姿を見送った直後に前の席の手すりを掴んでは、手の甲に額を付けて俯いた。 近くにいるのに遠くて、こんなにも想いは届かないものなのか。この気持ちを完全になかったものとして、時間が解決してくれるのを待って吉岡と友人関係を続けていく方が楽だと分かっている。けれど、今更諦める選択はできなかった。

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