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「うん。頼む……」
首筋から耳朶にかけて、熱を持ち始めているのを感じる。
きっと今の自分は顔から火が出るほど真っ赤になっている
に違いない。恥ずかしいけど、吉岡と一緒にいれるのは嬉しい。
「おっけい。じゃあ終わったら連絡するよ。それまで退屈かもしれないけど、帰ったりしないでよ」
吉岡に肩を突っつかれて僅かに体がよろけるが、すぐに立ち直す。
「帰らねーよ」
吉岡との約束を交わしたのに帰るわけがない。優作は彼の傍にいれるのなら何時間だって待てそうな気がするほどに、気持ちが高揚していた。
「ねえ、吉岡くん。ちょっとお願いごとがあるんだけど……」
そんな吉岡との約束に心を浮かれさせていると、赤い矢羽模様の着物を身に付けた國枝が下駄の音を響かせながら、吉岡に向かってきて話しかけてきた。
もしかして吉岡が文化祭の露店巡りの誘いを受けるのではないかと思っては、自然と眉間に皺が寄る。國枝が悪い奴ではないことは分かっていても、吉岡が女に誘われるのを隣で見ているのはいい気がしない。
「どうした?」
吉岡は壁に寄りかかるのをやめると、目線を國枝に向け、優作の一歩前に出る。
「喫茶店なんだけど……。一人欠席しちゃって、ホール係が足りないの。女子のみんなにも声掛けたんだけど、忙しいみたいで断られちゃって……。この際男子でもいいかなーって思ったから吉岡くん出てくれないかなー……って思って」
優作の僅かな不安は杞憂に終わり、人員不足のお願いだと分かって安堵するが、また違う不安が募り出す。
きっと吉岡は女子の御願いであれば気軽に請け負いそうだから、いくら自分との約束があっても、レディーファーストだとか言って優先されそうで……。
「うーん。國枝、申し訳ないんだけど、俺もステージの手伝いがあるし、その後も約束あるから無理そうなんだよね。代わりに他のやつにも声かけてあげようか?」
自分との約束を優先してくれたのは嬉しいが、唯頼まれただけなら『御免』の一言で終わりそうな話を、やはりお人好しの吉岡は違った。自身だって忙しいはずなのに、代わりを探す暇なんてあるのだろうか。
しかし、そんな彼の優しさが幾度となく優作を救ってきたことには違いない。
正直なところ、優しさの安売りをして吉岡に惚れてしまう奴がいるのではないかと不安要素の一つでもあるが、そこが彼のいいところなので否定はできなかった。
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