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吉岡に任せられる安心感からか、國枝の表情が和らいだ。一方で、引き受けたものの、心なしか困惑したように眉を顰める吉岡。
あてなんてあるのだろうか……。辻本と飯田はダメだろうし、他の奴に声を掛けるにしても、みんな準備で校内に散らばっていてすぐなんて見つからない。
もし出られる人がいなかったら多忙でも吉岡は、自分が出るといい出すんだろうか……。
それはちょっと嫌だ……。
「俺が出てもいいよ」
「えっ、優?大丈夫なの?」
國枝と吉岡の接点を増やすのも、困っている吉岡を放っておくことができず、優作は前に踏み出すと彼と並んだ。優作の発言が二人を驚かせたのか、吉岡と國枝は目を丸くして此方に視線を向けてくる。
「どうせお前、午前中忙しいんだろ?それまでなら暇だし……」
「ほんと⁉桜田くんが出てくれたら助かる」
國枝が表情を華やかにさせ、祈るように両手指を組んでは期待の眼差しで見てくる。國枝とはいえ、女子のキラキラした表情が苦手な優作は少しだけ身体を引かせて距離をとった。そ
れに自重した國枝が「ごめんね、ついつい嬉しくて」と照れ笑いをしながら謝ってくる。
「優が引き受けるのはいいけど、優が着られそうな着物はあるの?用意してあるのって女子用しかないんでしょ?」
「そうなの……。でも今からじゃ間に合わないし、最悪制服のままでもいいかなーって思って……」
「催し物部門で最優秀賞獲るんだって意気込んできたのにいいの?」
吉岡の言う賞とは、この文化祭で一番完成度やユーモアが高かったクラスに贈られる賞らしい。ステージ部門と展示部門があって、クラスで開く露店は展示部門に部類される。そのためにこの一か月間準備してきたと言っても過言ではなかった。
喫茶店の装飾も採点対象であるだろうが、従業員の服装からの雰囲気も大事になってくる中で、学校指定の制服じゃ質を下げてしまう。
國枝は肩をガクリと落とすと「仕方ないよね……。女子で探すにも当てがないし……」と酷く落ち込んでいる様子だった。問題は着る着物であって優作には頼りになる大当てがあった。
「楓なら着物持っているだろうから、心配ないけど」
常日頃お店で着物を着ている彼女なら一着や二着なんて容易い御用だろう。楓となら優作と大して体格は変わらない。
強いて問題点をあげるなら彼女が男物の着物を所持しているかだが……。
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